大阪プライム法律事務所

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世界遺産での「落書き」

08.07.15 | ニュース六法

今年の6月末から7月初めにかけて「落書き」が大きな話題となっています。イタリアの世界遺産から日本の名勝などのほか、新幹線でも落書きが発覚しました。落書きは立派な犯罪です。

今年の6月末から7月初めにかけて「落書き」が大きな話題となっています。イタリアの世界遺産から日本の名勝などのほか、新幹線でも落書きが発覚しました。落書きは立派な犯罪です。しかし、他の者もやっているという気安さも手伝ってか、罪の意識は薄いのかもしれません。ここで問われるのはモラルという心の問題なのかもしれません。

 

ただ、その後、同大聖堂の修繕責任者が、「落書きは許されないことだが、日本人が深い謝罪の意思を示したことに驚いた。敬服する」と述べた、という共同通信発信記事が出ていました。「落書きは日本語よりも英語やイタリア語によるものがはるかに多く、欧米では『文化財への落書きは当たり前のように見られている』だけに『(謝罪を通じて示された)日本人の良識』に尊敬の念を抱いた」というのです。『菊と刀』(1948年)で、「日本文化は外部(世間体や外聞)に持つ『恥の文化』である」と記述されていました。今回の大聖堂での落書き騒動は、①落書きを気楽にしたのは、あまりに多くの落書きを見て、落書き行為自体を他人から批判されることはないとの感覚になり、善悪の判断が働かず、恥と解せず行ってしまった。②しかし、事が発覚した後の日本社会は、今回の事件を「世界遺産に落書きした日本の恥さらし者」と見て、西欧人に恥を書かせた張本人に厳しい社会的批判と制裁を加えて外見を保とうとした、のではないでしょうか。本当は、落書き自体を「罪な行為」と考え、たとえ他人が落書きをしていようが、自分が行うことは「自身の恥」と考えられるような意識の醸成を、今回のことを教訓にして考えていくことが重要でしょう。

落書きの犯罪性

①建造物等損壊罪(建造物の場合)刑法第260条=5年以下の懲役

②器物損壊等(他人の物の場合)刑法第261条=3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料

③軽犯罪法違反(第1条33号)みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし・・これらの工作物若しくは標示物を汚した者=拘留又は科料

落書きと「建造物損壊罪」・「軽犯罪法違反」

建造物等損壊罪については、判例として、平成18年1月17日最高裁判所第3小法廷決定があります。これは、公園内の公衆便所の白色外壁に、ラッカースプレーで「戦争反対」などと大書し、建物外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたとして、建造物損壊罪に問われました。大阪のアメリカ村で「SANTA」という落書きが相次いだ事件で、自治会らが熱心な犯人検挙活動の末に、ようやく逮捕起訴された男(いわゆる『SANTA落書き事件』)に対し、2008年6月16日、建造物損壊罪などで、懲役2年(執行猶予付)の有罪判決が言い渡されましたが、これなどは、この最高裁判例に沿ったものです。

ただ、少しの落書きで、建物の外壁に対する落書き行為が「著しい汚損」で、かつ、「原状回復に相当の困難」を生じさせたとまで言えない場合は、「汚した」ものとして、軽犯罪法1条33号の罪が成立すると考えられます。今回の大聖堂への落書きのような行為は、落書き行為全部を俯瞰すると、「著しい汚損」かつ「原状回復に相当の困難」と解されますが、一人だけの単独の落書き行為だけで考えると、「汚した」ものとして、軽犯罪法1条33号違反罪のみとなるのでしょう。

落書きと「器物損壊罪」 

今回発生した上越新幹線(200系)の車体側面落書きは、器物損壊となります。これと酷似した判例として平成14年7月8日和歌山地方裁判所判決があります。これは、2回にわたって、和歌山県内で、2両編成電車側面のほぼ全体に塗料を吹き付けた事件に対して、実刑判決を言い渡しています。 

自然物への落書き

最近、鳥取砂丘でも「落書き」が多く、困っているとのことで、条例で規制をする方向と聞きました。こういった自然物は、建造物でも器物でもないので、刑法や軽犯罪法では処罰ができないため条例が必要ですが、いまだそういった条例はありません。鳥取県がそういった条例を作れば、全国初でしょう。ただ、砂丘となると、「落書きの定義」をどうするのか、気になるところです。

 

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