大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

「清武の乱」と会社法

11.12.14 | ニュース六法

"

このところ、オリンパスの損失隠し問題、大王製紙の御曹司のカジノ遊び問題、読売巨人軍のいわゆるナベツネ・清武問題で、大騒ぎです。経済紙も、スポーツ紙も、取り上げ方は様々ですが、今年の重大ニュースに入ることは確実です。それぞれの問題状況も、発生した背景や原因は、それぞれ全く違いますが、いずれも企業としての内部統制とかコンプライアンスが問題になっている点で一致しています。
 
これら一連の問題は、いずれも法的にも興味深い問題ばかりですが、幅が広すぎて大変です。ここでは、読売と清武氏との訴訟合戦で見られる「会社法」の規定について、覗いてみたいと思います。
"

"

騒動の経緯
この騒動の発端は、2011年11月11日に、株式会社読売巨人軍の球団代表である清武英利氏が、「読売巨人軍のコンプライアンス上の重大な件」する記者会見を開いて、巨人の来季のヘッドコーチ人事を巡って渡邉恒雄球団会長が不当に介入し、大王製紙やオリンパスを引き合いに出して、会社の内部統制とコンプライアンスを破ったとする声明を発表したことからです。その後、11月18日に、読売新聞社本社においてグループ本社の臨時取締役会が開かれ、そこで清武氏の解任が決議されました。
 
その解任後の11月25日に、清武氏は日本外国特派員協会で記者会見し、「適正手続を無視した渡辺氏の行為は、株式会社の内部統制・企業統治に違反するものである」と述べました。 
 
その後に様々な動きがありましたが、12月5日に、渡辺球団会長への批判会見で名誉を毀損したなどとして、株式会社読売新聞グループ本社と株式会社読売巨人軍が、清武氏に対して、総額1億円(それぞれが5000万円ずつ)の損害賠償を求め東京地裁に提訴しました。
 
そこで説明された訴状の内容によると、清武氏が11月11日に開いた記者会見が、会社の秘密情報を明らかにしたり、名誉や信用を毀損したりしたことが、会社法が定める「忠実義務」に違反するというものでした。
 
これに対して、12月13日には、清武氏が、巨人と読売新聞グループ及び渡辺恒雄球団会長に対して、取締役の不当解任、名誉毀損されたなどとして、損害賠償と謝罪広告の掲載を求めて東京地裁に提訴しました。まさに泥沼状態です。
 
読売側訴状の請求の法的根拠について
いくつかの情報からして、読売巨人軍と読売新聞グループ本社の賠償請求の法的構成は以下のようです。そこでは、主に11月11日の記者会見と、解任後の25日の日本外国特派員協会での記者会見が問題にされています。(訴状本体を見ていないので正確かどうかは保証しかねます。)。 
 
(1)読売巨人軍の請求(5000万)
清武氏は、読売巨人軍の専務取締役として、法令・定款・株主総会決議を遵守し、会社の秘密情報を明らかにしたり、会社の名誉や信用を毀損したりしてはならないという忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(同330条、民法644条)に違反したことから、会社法423条によって損害賠償義務があるというものです。
(違反事実としては、会社法や定款に定められた手続きを無視して独断で11月11日の記者会見を強行したこと、江川氏招聘案やフロント人事構想などの秘密情報を公表したこと、読売巨人軍はコンプライアンスが遵守されておらず内部統制が機能していない会社であるかのような誤解を与えたこと。) 
 
なお、清武氏が解任後に行った25日の記者会見で、読売巨人軍はコンプライアンスが遵守されていない会社であると発言したことについては、読売巨人軍の名誉を毀損したとして、民法709条、同710条の不法行為に基づく損害賠償も請求をしています。 
 
(2)読売新聞グループ本社の請求(5000万)
11月11日の記者会見等に関して、読売新聞グループ本社の完全子会社でありグループの中核会社であって人事・財務・業務の全てにおいて指導を受ける読売巨人軍の専務取締役として、読売新聞グループ本社に対して負っている忠実義務と善管注意義務に違反して読売新聞グループ本社に損害を与えた。(根拠は民法709,710か?)

11月11日と25日の2回の記者会見等に関して、読売新聞グループ本社は代表取締役がコンプライアンスを無視する会社であり、コーポレート・ガバナンスに重大な問題がある会社であるかのような誤解を社会に広め、読売新聞グループ本社の名誉を毀損した。(これも根拠は民法709,710か?)
 
忠実義務・善管注意義務とは
取締役と会社との関係は委任関係にあります(会社法330条)。このため、取締役と会社との間では民法644条が準用され、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。」とされています。これが「善管注意義務」です。これは、行為者の職業や社会的地位に応じて通常期待されている注意義務のことを指すとされています。
 
「忠実義務」というのは、会社法355条で明記されたものです。取締役は会社に対し、善管注意義務のみならず忠実義務を負担するものとされています。取締役は会社に忠実でなければならず、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならない義務と説明されています。
 
今回の読売側訴状の請求では、この「忠実義務」と「善管注意義務」を法的根拠に挙げています。ただ、清武氏は読売巨人軍の専務取締役ですので、読売巨人軍はこれを根拠にしています。ただ、読売新聞グループ本社もこれを根拠にしたようです。しかし、完全子会社でありグループの中核会社であって人事・財務・業務の全てにおいて指導を受ける読売巨人軍の専務取締役として読売新聞グループ本社に対しても忠実義務と善管注意義務を負っていると主張のようです。読売新聞グループ本社の取締役でない人物に対しても、これを根拠にできるのかは、気になるところです。
 
清武氏訴状の請求の法的根拠について
12月13日に清武氏が提訴したのは、巨人と読売新聞グループ、渡辺恒雄球団会長に対してですが、詳細な請求の内容はよく知りえていません。
 
報道で知る限りでは、概要は大きく3点で、
①取締役だった清武氏が渡辺球団会長を内部告発したのに対して、「正当な理由なく解任」したことから、取締役在任期間中得られるはずだった報酬分の5220万円の損害賠償請求、②巨人と読売新聞グループと渡辺球団会長が、虚偽事実を含む報道で清武氏の名誉が傷つけたとして1000万円の慰謝料請求、③巨人軍と渡辺球団会長に連帯して読売新聞本紙に謝罪広告掲載請求、のようでした。
 
取締役報酬分の請求について
清武氏が取締役在任期間中得られるはずだった報酬分として請求したのは、以下の会社法での根拠によるものと思われます。株式会社は、いつでも、株主総会の決議によって役員等を解任することができます(会社法339条1項)が、「解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」としています(同法339条2項)。 
 
清武氏は、この規定に基づいて、自分の解任は「正当な理由がない」として、解任されなかったならば得られたであろう役員報酬などの利益について損害賠償として請求しているものと思われます。
 
訴訟の最大の争点 
以上からして、訴訟での最大の争点は、「清武氏の解任について正当な理由」があったかどうか、ということになります。この点は、読売側が立証しなければなりません。
結局、行きつくところの問題点は、清武氏のいう「内部告発」行為が取締役の善管注意義務・忠実義務に違反していたかどうか、渡辺氏や巨人軍、読売新聞グループに対する名誉毀損や信用毀損行為を行ったかどうかということになります。
 
取締役の解任に正当理由があるか否かをめぐって争われた裁判例では、東京地方裁判所判決平成18・8・30(正当理由を肯定)、東京地方裁判所判決平成11・12・24(正当理由を否定)、大阪地方裁判所判決平成10・1・28(正当理由を肯定)、名古屋地方裁判所判決昭和63・9・30(正当理由を否定)、最高裁判決昭和57・1・21(正当理由がないとはいえないとした原審の判断を是認)などがあります。
 
参考に述べますと、東京地方裁判所判決平成18・8・30の事件では、解任された原告が会社の情報をフリールポライター等に提供したことに原因があったようで、それは、意に沿わない人事異動の打診があったことを契機とした会社とその代表者への糾弾を中心とする報復措置と受け止められても仕方のないものと評価でき、会社の業務を適正化するというよりも、むしろ業務執行を阻害するものであるなどとして、解任には正当の理由があるとしました。
"

TOPへ