大阪プライム法律事務所

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「アイムソーリー禁止令」と「アイムソーリー法」

12.03.14 | ニュース六法

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米国レンジャーズに移ったダルビッシュ有投手。かの地では、早くも人気沸騰です。そのダルビッシュに関して、先日、昨季16勝した同じチームのホランド選手が、ダルにある忠告をしたことが少し話題になりました。ダルが、制球が乱れるたびに謝る光景を見て、「謝罪は絶対ダメ」 。これが、「アイム・ソーリー禁止令」を出したとして、ニュースの見出しになりました。
米国の文化を見る思いですが、しかし、その米国では、「アイム・ソーリー法」なる法律ができています。どういうことでしょうか。
 

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ホランド選手は、ダルが、投球練習やキャッチボールで制球が乱れるたびに謝る光景を見て注文したようです。「狙って投げられなくても謝る必要はない。むしろ謝っては絶対にいけない」と語気を強めた、とのことです。(2012年2月23日スポーツニッポン)

米国では、よく「交通事故をおこしてしまった場合、絶対に謝罪してはいけない。」と言われる社会だと言われています。「権利」を主張する訴訟社会のアメリカでは、何があっても謝ってはならない、謝ったら最後、責任があることを認めたという訴訟上の証拠となってしまう、ということです。訴訟大国アメリカを象徴する事例としてよく語られています。今回のホランド選手の発言とは、必ずしも同じ問題と言えるかは別としても、謝ることの意味に関しての文化の違いの一つの面かもしれません。

そのような米国社会は、実は、それに対する反省の動きが出てきています。
その象徴的なこととして、米国各州で、「アイムソーリー法」(「Sorry Law」)という法律が制定されるようになっています。

この「アイムソーリー法」とは、例えば交通事故が発生した際に、まだ当事者のどちらが原因か分らない時点で、片方が"I'm sorry."と言っても、それは自分の方の非を認めた証拠にはならないという趣旨です。つまり、謝ったとしても、それ自体では、後で訴訟となっても不利にはならない、という法律です。

この法律が米国で最初に制定したのはマサチューセッツ州でした。きっかけは、74年に地元で起きたある少女の不幸な交通事故からでした。ある少女が自転車に乗っていて、自動車にはねられて死亡する事故がありました。その少女の父親が、加害者の運転手に何度か謝罪を求めましたが、その運転手は、謝ると訴訟で不利になるとして、それを拒んだのでした。その亡き少女の父親は、実は州の上院議員でした。この自分の悲しい経験から、事故を起こして人が死んでも、「アイムソーリー」の一言も言えないアメリカ社会は、どう考えてもいい社会とは言えないと人々に訴えました。そして、謝ったからと言って、それが不利にならないことを定めた「アイムソーリー法」を提唱し、これが実現されたのでした。その後各州で立法が行われ、2001年の1月にはカリフォルニア州でも立法が実現しています。

これまで、そうした言葉をうかつに出すと、裁判で不利な立場になるとして、双方が互いに何を言われても、決して"I'm sorry."と言うことを避けてきたのでした。しかし、交通事故訴訟ばかりでなく、医療過誤の場面でも、「相手が謝罪してくれるだけでいいのだ」という理由が提訴理由に多かったところ、この法律ができてからは、医療ミスに関連した訴訟の激減にもつながっていると指摘されています。

日本で損害賠償問題を扱っている経験からしますと、日本では、事故を起こした場合には、まずは最初に謝罪の言葉を述べたかどうかが、その後の紛争の拡大につながるかどうかの大きな要素になっています。そこで謝罪の言葉が無かったとか、不十分であったとかいうことが、その後の賠償交渉の行方に大きな影響を与えています。謝罪の言葉があれば、被害当事者の側の心は和らぎ、比較的に示談交渉が進みやすくなるというのが経験則です。

このことは、実は、アメリカでも同じことであったことが、意識され始めたということだと思います。ダルも、キャッチボールで制球が乱れるたびに謝る必要はないと思いますが、打者に球を当ててしまった場合は、すなおにアイム・ソーリーと言って謝ったらいいと思います。

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