大阪プライム法律事務所

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巨人の原監督と「反社会的勢力」

12.07.09 | ニュース六法

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本年6月21日発売の「週刊文春」に、巨人軍の原辰徳監督が、あろうことか、元暴力団員に1億円を払っていたとする記事が掲載されました。
その前日には、球団側は記者会見を開き、「記事は事実と異なり、原監督と球団の名誉を毀損する」と述べ、文春側に損害賠償訴訟を起こす方針を示しました。巨人軍を巡っては、本業の野球以外のところで、多くの泥沼争いが噴出していますが、今回の動きは、かなり「変です」。

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週刊文春の見出しは、「原監督が元暴力団員に1億円払っていた」。
その記事によると、原監督は2006年に球界関係者と名乗る2人組の男性から連絡を受け、現役選手時代の1988年に関係があったとする女性の日記のコピーを見せられ、「これが表に出ないようには金がいる」として1億円を要求され、それを支払った、というものです。さらに、その3年後の09年4月に、日記の所有者だったという別の男が球団に返還を求めてきて、「返してくれないなら、騒ぎを大きくする」と接触してきて、その際に球団として、原監督による1億円支払の事実を知ったということです。このとき原監督は妻にも打ち明けることとなったそうです。この時に日記の返還を求めてきた男は、その年の12月に、ガソリン缶やガスボンベを持って球団に押しかけ、威力業務妨害で現行犯逮捕され、有罪が確定しています(なぜ、このときに、今回の問題が公にならなかったか、不思議です。)。ところが、06年の事件については、2人組のうちの1人が事故死していたために真相究明が困難と警視庁から説明され、被害届は提出しなかったといいます。

球団側は今回の記者会見で、女性との関係や1億円支払いの事実関係については認めた上で、「反社会的勢力に支払った事実はないなどと説明」し、「記事は事実と異なるとして、損害賠償請求訴訟を起こす方針を明らかにした」(時事通信6月20日付)そうです。

その後、最近、清武問題などで、関係がギクシャクしている朝日新聞が、これに“参入”するかのように、2人の男の一人に直接取材したり、捜査当局からの情報をもとに、男がかつて暴力団に所属していたことを認めたこと、もう1人の男は07年に事故死したが、それまでは大阪の暴力団関係者だった、と報じました。

文春問題
問題はあちこちにありますが、こと、文春対巨人軍・原監督との関係でいえば、問題はシンプルです。一言で言えば、問題点は当時の原監督(当時は現役選手)の相手についての「反社会的勢力」の「認識」にあります。支払った当時に、相手が「反社会的勢力」な人間であるという認識があったならば、この部分に関してだけ言えば、文春の記事に名誉毀損の成立する余地はないと考えられます。ひとつ厄介な問題としては、「反社会的勢力」という言葉自体は、最近になってから使用されてきたということがあります。

反社会的勢力とは
この言葉は、今のところ広辞苑等にも載っていませんが、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ が定めた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日)で記載された「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」とするのが一般的かと思います。

より具体的には、どのような者が、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」といえるのかは、明確な決まりがあるわけではありません。しかし、暴力団員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動標ぼうゴロ等、特殊知能暴力集団、これらの者との共生者(暴力団に資金提供をし、その見返りに暴力団から便宜供与を受ける、暴力団と「もちつもたれつ」の関係にある者など)が、典型的な反社会的勢力とされているほか、暴力的または不当な要求行為等により市民社会の秩序や安全に脅威を及ぼす団体または個人等を広く指して使用されているものと思います。

このように、反社会的勢力という言葉は比較的に新しい用語ですが、「反社会的勢力かどうかの認識」は、相手がどういう人物であったかの認識によって決まります。そういった意味からしても、今回の件では、1億円という巨額の「口止め料」要求を受けたならば、要求相手が「素人」ではないと気が付くのが一般的ではないでしょうか。少なくとも「相手は暴力団?」と疑ってかかることが常識でしょう。少なくとも、暴力的または不当な要求行為等により市民社会の秩序や安全に脅威を及ぼす個人なのかどうかは、容易に判断しえたものと思います。当時、それすら思いが至らなかったというのは、あまにも不可思議すぎる話ではないでしょうか。

現在の状況のもとで、なお、原監督は被害届を警察に提出しようとしていません。2006年に1億円を払った事案は恐喝罪が成立するものと解され、同罪は10年以下の懲役刑で、公訴時効7年ですので、来年まで時効は完成していません。被害届が可能なのに、それをしないで、週刊文春を相手に提訴するというのは、戦う相手を間違っているのではないか、と思います。 

もし、金を払った相手の男が暴力団員関係者だった場合は、野球協約180条の「賭博行為の禁止及び暴力団員等との交際禁止」に抵触することになります。そうすると、原監督は、直ちにその地位を断念すべきことになります。巨人軍や読売グループは、それを防ぐためか、世間の目をそらす目的か、これを週刊文春問題に集約してしまおうという方針なのでしょうか。なかなか、理解しにくいところですが。

教訓として
こういった恐喝問題に直面した場合は、まずは、きちんと弁護士に相談し、弁護士を通じて警察に被害届を出すべきだったと言えます。ことがある程度の範囲で公にはなりますが、その後ことを考えると、こういった毅然とした対応が、問題の拡大を最低限に抑える結果になると言えます。

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