大阪プライム法律事務所

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2つの「解任」騒動から学ぶもの

12.04.14 | ニュース六法

最近、2つの「解任」騒動のニュースがありました。ひとつは、国民新党での亀井静香代表解任事件。もうひとつは、小林幸子の所属事務所社長解任騒動です。前者は政党代表の、後者は株式会社代表の解任です。解任は、簡単なようで難しい。ここから学ぶ教訓はなんでしょうか。

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小林幸子問題
所属事務所の経営形態は、どうやら「株式会社幸子プロモーション」という株式会社のようです。
小林幸子と、社長及び専務らとの間で、経営方針の相違が表面化し、関係の解消という方向で、双方が弁護士を代理人として話合いを行ったが、慰労金支給額等を巡って合意に至らず、その結果、同社はその社長及び専務を解任したようです。解任は平成24年3月末と思われ、現在は小林幸子が社長に就任しているようです。
上記の経緯からすると、株式会社幸子プロモーションは、代表取締役と専務取締役の2名を、取締役の地位自体を解任したものと解されます。

取締役の解任に関する法的手続き
これは会社法に明記されていて、株主総会決議で行うものとしています。かつての旧商法では、その議決権は厳しく制限もありましたが、新しい会社法では、この点の緩和処置がなされています。
会社法では、取締役の解任決議の要件を普通決議(過半数決議)でできるものとされました(会社法341条)。これは、株主の意向を強く反映させる方が効率的であるという考えに基づくものです。(ただし定款で決議要件を加重することも可能とされています。)。
取締役解任の具体的手続
取締役会を設置している会社では、通常、株主総会の招集決定を行なう際に、特定の取締役の解任を議題とする旨を決定することとなります(会社法298条1項2号)。解任については、その議題自体が特定の取締役に関するものとなりますから、招集通知において、いずれの取締役の解任に関する件であるかは通知されます(会社法299条4項)。取締役の解任議案が提出された株主総会では、解任対象とされている取締役には、意見陳述権がありません。その株主総会において、解任議案が可決された場合には、取締役が解任されます。
今回の株式会社幸子プロモーションでの社長等の解任手続きの実際の流れは分かりませんが、おそらくこういった手続きを経ているものと思われます。
解任理由
解任の理由には法律上の制限はありません。このため、手続きさえ適正になされていれば、解任そのものを争うことはできません。しかし、「正当な理由」がないのに任期満了前に取締役を解任した場合は、「解任によって生じた損害」を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。
どのような場合に「正当な理由」が認められるかについては難しい争点になります。例えば、横領・背任行為などの法令違反や、定款の手続を無視した職務執行などの定款違反行為があれば、「正当な理由」があるとされます。
今回のような、株主と取締役との経営判断の違いからの解任の場合は、どうでしょうか。今回の事実関係は不明ですので、断定はできませんが、通常は、賠償を要せずに取締役を解任できることにはならないと解されます。(もっとも、能力の著しい欠如など職務への著しい不適任にまで達している場合は、「正当の理由」が認められる余地はあると考えられます。東京高裁昭和58年4月28日判決参考)。
解任に「正当な理由」が認められない場合に賠償すべき損害
取締役が解任されなければ在任中及び任期満了時に得られた利益の額であるとされています(大阪高裁昭和56年1月30日判決)。具体的には、任期満期までの、役員報酬、役員賞与、退職金(定款の定め等により退職金を受け得た場合で、解任時に退職金を減額もしくはゼロとされた場合)などが考えられます。株式会社幸子プロモーションの事件では、今後、この点が協議の課題として残るのではないでしょうか。
いずれにせよ、経営をまかせていた取締役を任期満了前に解任する場合は、これらのことを踏まえて行わなければなりません。
亀井静香 解任事件
こちらのほうが、もっと、厄介な話です。会社法のような法律上の規定もないし、国民新党という団体規約自体に大きな不備があったようです。
平成24年3月29日に、亀井代表が消費税増税法案に反対して、連立政権からの離脱を表明しました。これに反対する下地幹事長や自見金融・郵政改革担当大臣を含む6人が連立維持を表明し、党内は分裂状態に陥り、4月5日夜、下地幹事長は、6人で議員総会を開き、亀井代表及び亀井亜紀子政調会長を解任し、代表、政調会長にそれぞれ自見金融・郵政改革担当大臣、浜田和幸副幹事長を選出したと発表しました。
これに対し、亀井代表と亀井亜紀子政調会長は、議員総会を招集する権限は代表にあり、代表が招集していない議員総会による解任は無効と主張し、「クーデターだ」と批判しました。その後、連立維持派は政治資金規正法に基づき党代表を変更する役員変更届を提出し受理され、亀井静香、亀井亜紀子は離党しました。その後も批判合戦をしており、泥沼です。
亀井静香側の「解任無効」の主張の根拠は、①議員総会は代表が招集するものだが、その手続きが取られていない、②党規約に解任の規定がない、③代表不在の議員総会は無効、④党代表交代届けに使った代表の印鑑は無効というものです。
解任有効派の国民新党側の根拠としては、国民新党所属の議員の過半数で総会を開き、全議員の75%が賛成したもので、民主的な手続きでルールにのっとっており、瑕疵はないというものです。
どちらが正しいのか
これは難問です。判断するにも、そもそも、国民新党の党則なるものがどういう内容か分かりません。インターネットで探してみても現われませんでした。報道で聞く限りでは、党則に議員総会に関する規定がないということです。このことから、今回開催された総会が有効か無効かは、党則では判断できません。党代表の総会招集権限についても明記がなく、誰が招集するのかも不明です。
党代表について、党則では「党の最高責任者であって、党を代表し、党務を総理する」としか記載されていないようです。党役員については、「所属する国会議員の総会において選出する」との規則に基づいて総会を開いたようですが、細かな記載がないようです。
国民新党の党則では党の「役員の選任」は議員総会で行うことになっていたようですが、どうやら、党の役員を解任するという事態想定していなかったものと思われます。規約に解任手続が明定されていないのであれば、6名の国会議員だけが集まって党の代表を解任したと言っても、法的な正当性があるとは言い難いかと思います。
最大の問題点
本来はこういった団体には、「団体を代表する者」をどうやって選出するのか、それを解任する場合はどういう手続きを経るのかについての定めが不可欠です。それが党則にないとするならば、致命的な欠陥党則ではないでしょうか。政党助成金の交付を受ける公党として、恥ずかしいと思います。
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