大阪プライム法律事務所

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「コンプリートガチャ」はなぜ違法?

12.05.13 | ニュース六法

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消費者庁が、「コンプリートガチャ」について、ガイドラインを作って事業者に注意を呼びかける考えを示しました。すると、DeNA(ディー・エヌ・エー)と「グリー」などが、相次いでこのサービスを廃止することを表明しました。
このゲームは、インターネットを通じて携帯電話などで遊ぶソーシャルゲームの一種ですが、「景品表示法」に反して違法であるとの見解を、消費者庁が示すことが分かったことからの対応です。どのような点が違法性を帯びるのでしょうか。意外にも、昔の「おまけ商法」とも共通の点があります。

 

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■コンプリートガチャについては、読売新聞が5月5日の紙面で、消費者庁が「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法、景表法)が禁じる懸賞に当たると判断して中止を要請するように報じてから騒動が始まりました。
その後、福嶋浩彦消費者庁長官が、記者会見で、「子どもが月数十万円も請求された例もある。一定の規制をしなければならない」と述べ、今後、ゲームを配信している業者に対し注意喚起していく考えを示しました。

これらを受けて、業界大手のDeNA(ディー・エヌ・エー)は、決算の記者会見で「コンプリートガチャが直ちに法律に違反しているとは考えていないが、消費者庁の方針を受けて順次廃止していく」と述べ、このサービスを廃止することを明らかにしました。また、同じ業界大手の「グリー」も月末までに終了することを発表するなど、各社がこのサービスの廃止を相次いで表明しました。両社にとって、コンプリートガチャは大きな収益源となっていたようで、両社の株価がストップ安になる騒ぎにもなりました。

■コンプリートガチャとは
携帯電話用のソーシャルゲームの一つで ランダムに入手でき、出現率が低いカードの「ある組み合わせ」を有料で揃えることで、レアなアイテムがプレゼントされる仕組みになっていて、レアアイテムを得ることで、ゲームを有利に運べたりするゲームです。レアアイテムは直接購入することができず、全て揃えるために、何万円も、場合によっては数十万円もつぎ込んでしまうこともあるようです。これに熱中した中学生などが1ヶ月に数十万円も使い込み請求されることなどでのトラブルが相次いでいました。

■コンプリートガチャのどこが景表法違反となるのか
消費者庁は、希少アイテムが景表法で制限されている懸賞に当たると判断し、提供する際に複数アイテムの組み合わせを条件としていることについて、同法が禁じる「カード合わせ」に該当するとしたものと考えられます。

■景表法第3条の規定
一定の要件のもとで、「景品類の制限及び禁止」の規定を設け、内閣総理大臣がその制限範囲を定めることができるようになっています。

(景品類の制限及び禁止)
第三条  内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。

■告示「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」
これに基づいて、内閣総理大臣が定めた「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」という告示があります。その中に、以下の規定があります。

1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によって景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。
 一 くじその他偶然性を利用して定める方法
 二 特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法
 (中略)
5 前三項の規定にかかわらず、二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は、してはならない。

■「コンプリートガチャ」は、上記告示5項にある、「二以上の種類の文字、絵、符号等を表示した符票のうち、異なる種類の符票の特定の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供」に当たり違法となる、という解釈がされたものと解されます。

■この手法は、かつて、キャラメルなどの箱の中に野球選手などの写真の付いた「カード」がランダムに入っていて、何枚かカードを揃えると景品がもらえたものと共通しています。このようなカードを集め始めると、最初は順調に揃っていくのですが、最後の数枚が揃わず、諦めらめられなので、なんとか手に入れようとして、お菓子を買いまくるという行動に至ります。私自身も、幼いころに夢中になった記憶があります。これで大金をはたく子どもが出てきて、ついに規制されるようになったのでした。

このようなキャラメル商法は、今回のコンプリートガチャの仕組みと非常に似ていると指摘されていました。このゲームでアイテムを購入した人は、最後の数個のアイテムを揃えようとして、結局、大金を使うようになってしまう人が多数いました。このため、コンプリートガチャにも、同じ規制をかけようという発想でなされたものと思います。

■「景品」かどうか
「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」という公正取引委員会の告示があります。それによると、「景品類」については、その第1項で、以下のように定め「景品類」の定義をしています。

不当景品類及び不当表示防止法第2条第1項に規定する景品類とは,顧客を誘引するための手段として,方法のいかんを問わず,事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に附随して相手方に提供する物品金銭その他の経済上の利益であって,次に掲げるものをいう。ただし,正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益は,含まない。
一 物品及び土地,建物その他の工作物
二 金銭,金券,預金証書,当せん金附証票及び公社債,株券,商品券その他の有価証券
三 きよう応(映画,演劇,スポーツ,旅行その他の催物等への招待又は優待を含む。)
四 便益,労務その他の役務

今回のコンプリートガチャが、アイテムを揃えるともらえるという希少アイテムが、この「景品類」のどれに当たるのかはやや分かりにくい気がするのですが、三号の「きょう応」か、四号の「便益,労務その他の役務」に当たると考えるのかと思われます。

■経済上の利益か
また、「経済上の利益」であることが要件となっていますが、「コンプリートガチャのアイテムは経済上の利益ではないのでは」という声も出ていました。しかし、この点も、上記を受けて出された通達である「景品類等の指定の告示の運用基準について」では、「物品,金銭その他の経済上の利益」について、「事業者が,そのための特段の出費を要しないで提供できる物品等であっても,又は市販されていない物品等であっても,提供を受ける者の側からみて,通常,経済的対価を支払って取得すると認められるものは,『経済上の利益』に含まれる。ただし,経済的対価を支払って取得すると認められないもの(例 表彰状,表彰盾,表彰バッジ,トロフィー等のように相手方の名誉を表するもの)は,『経済上の利益』に含まれない。」としています。

つまりは、提供を受ける者の側からみて,通常,経済的対価を支払って取得すると認められるものは「経済上の利益」だということですから、この点も該当するということになると思われます。

■規制の背景
景表法は、その第1条にあるように、「この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。」としていて、一般消費者の利益保護を定めたものです。

ゲームが提供され始めてそれほど立っていない間に、「高額の料金請求」という「被害」が生じてきたことから、今回の問題に発展してきたと言えます。「おまけ」が欲しい子どもに、要りもしないチョコレートなどを買わせる商法は、行きすぎると弊害が大きく出ます。今回の問題も、基本はそこにあり、時代は変わって新しい形態で同じような商法が出てきたということになるかと思います。
 

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