大阪プライム法律事務所

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ストーカー規制法は現代に合っていない?

12.12.13 | ニュース六法

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神奈川県逗子市で、この11月6日に、男が元交際相手の女性を殺害後に自殺する事件がありました。この男は2週間に1000件をも超える嫌がらせメールを、この女性に送信していたものの、県警はストーカー規制法違反で立件できないと判断していました。
この法律は、電話やFAX、つきまといなどによるしつこい行為などを禁じていますが、電子メールについては対象外で、法の「盲点」がつかれた形となりました。時代に合わせた改正が必要ですが、問題は簡単ではありません。

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神奈川県警逗子署は、大量メールを送り付けられたこの女性から相談されていました。相談を受けた同署は、県警ストーカー対策室や横浜地検にも対応を相談しましたが、メールの内容が「殺す」などの脅迫文ではないため、ストーカー規制法や脅迫罪での事件化は難しいと判断し、女性に「警告や処罰は難しい」と回答していました。他方で、同署は、女性の自宅を毎日の巡回などで対応したものの、被害を防げなかったものでした。 

一部の自治体は既に条例を改正し、メールによる嫌がらせを規制していますが、神奈川県は規制の対象にしていませんでした。県では「社会情勢の変化に適切に対応するため、メールによる嫌がらせなどの実態を調査し、条例改正を検討する」としています。 
 

ストーカー規制法とは
正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といいます。「桶川ストーカー殺人事件」を契機に、議員立法として成立し、2000年(平成12年)11月24日から施行されています。

ストーカー(stalker)という言葉は、特定の他者に対して執拗につきまとう行為を行なう人間を指し、その行為はストーカー行為あるいはストーキングと呼ばれます。ストーカー規制法では、「つきまとい等」と「ストーカー行為」を、定義を明確にして規制しています。保護対象は女性に限られず、男性も本法によって保護されます。 
 

「つきまとい等」とは
ストーカー行為規制法での「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう、と規定し(同法2条1項)、 何人も、「つきまとい等」をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない、としています(同法3条)。

①つきまとい・待ち伏せ・押しかけ
②監視していると告げる行為
③面会・交際要求
④粗野又は乱暴な言動
⑤無言電話・連続電話FAX
(電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、
連続して、電話をかけ、もしくはファクシミリ装置を用いて送信すること。)
⑥不快・嫌悪物の送付等
⑦名誉侵害
⑧性的羞恥心を害する行為

 

「ストーカー行為」とは
ストーカー規制法で警告や処罰の対象となる「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、前述①から⑧までの「つきまとい等」を反復してすることをいいます。(ただし、この8つの行為類型のうち、①から④までの行為については、「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合」のみ対象となります。) 

 

メール送信について
現在のストーカー規制法では、上記⑤にあるように、「拒まれたのに連続して電話をかけたりファクスを送ったりすること」は警告や処罰対象にしていますが、メールの送信は明記されていません。実際の現場では、最近は電話よりも、メールを送信して、受け取った側を不安に感じさせるケースが多いようで、それに対処できないのは、法が時代に追いついていないとする意見が多くを占めています。法の成立当時は、電子メールやソーシャル・ネットワーキング・サービスへの書き込みなどは、およそ想定されていなかったものの、現在は広くこれらが社会的に使用されている以上、規制対象に含めることも検討すべきでしょう。

 

ちなみに、メールが脅迫と判断できるようなものは、刑法の脅迫罪にあたります。例えば「付き合え、さもないと裸の写真をばらまくぞ」とか、「言うことを聞かなければ殺すぞ」などといった場合がこれにあたります。また、無言電話が何回もかかってきて、仕事に差し支えが出たという場合も刑法の業務妨害罪になる場合があります。例えば、被害者の店に、3カ月弱に約970回にわたって無言電話をかけた事例で、業務妨害罪が成立するとした判決があります(東京高等裁判所昭和48年8月7日判決)。
 

今回の事件では、この男は脅迫罪で一度逮捕され有罪判決を受けていたことから、その後のメールでは、脅迫に当たらないように慎重に文面を検討して、「精神的慰謝料を請求します」といった、脅迫的文言を入れないで送っていたようです。
 

ストーカー規制法の抜本的改正を求める緊急声明
この事件を受けて、ドメスティックバイオレンス(DV)の被害女性を支援するNPO法人全国女性シェルターネットなど全国の団体(11月22日現在で49団体)が、ストーカー規制法の抜本的改正を求める緊急声明を出しました。

この声明では、「今回の事件によって、メールがつきまとい行為に明文化されていないことはもちろんのこと、被害者が直接保護を求める仕組みになっていないなど、現行のストーカー規制法が現実のストーカー事件に対応できない不充分なものであることを再確認させられた」としたうえで、メールをつきまとい行為に含めるといった小手先の修正にとどまらず、本当に被害者の命を守ることのできるストーカー規制法に改正する必要があると主張しています。そのうえで、2度とストーカーによる犠牲者を出さないための実効性のある抜本的な対策を求めるとして、以下の点を挙げています(ここでは要約しています)。

(1)全ての警察官を対象に特別研修を実施すること。
(2)女性に対する暴力事案について、具体的で実効性のある捜査マニュアルを作成し、全ての警察官に携帯させること。
(3)つきまとい行為にメールを明文化すること、接近禁止命令が出されるようにするなど、ストーカー規制法を抜本的に改正すること。
(4)DV防止法の対象を「配偶者等」と拡大して、ストーカー事案についても、保護命令及び緊急一時保護の制度を活用できるようにすること。
(5)探偵業者がDV加害者からの依頼によって被害者の居所を探してはならないことを徹底すること。 

 

メールを明記することの論議についての懸念
つきまとい行為にメールを明文化することの方向で法改正が進むものと思いますが、メールを多数回送信したことをストーカー行為として処罰することには、いたずらに処罰範囲を拡大することで、ストーカーとしての実体がないのに悪用される懸念などからの反対意見もあります。

代表的な反対意見としては、罰される行為の範囲が拡大されることにより、本来処罰されるべきではない(処罰しなくても良い)行為も、対象となってしまうという懸念です。極端な例としては、いわゆる「偽装ストーカー的」な被害申出(例えば、女性が男性からの負債を返したくないばかりに、返金を求める男性をストーカーと主張し出すなどの行為)の実例も存在するからです。

現在禁止される8つの「直接的な行為・行動」であるが、メールは受信拒否したら対応が済むことから、今回の事件で防げなかったからと言って、むやみやたらに処罰範囲を広げるのではなく、十分な議論を行うべきであるとしています。特に今回の悲劇も、この容疑者については、別の類型で摘発することは可能であったはずとして、安易な拡大に慎重であるべきとしています。こういった慎重論は、こういった慎重論にも十分に耳を貸しながら、議論を深めなければならないと思います。

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