大阪プライム法律事務所

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海老蔵事件は法律問題の山

10.12.12 | ニュース六法

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師走の12日(日)、恒例の京都南座での吉例顔見世興行の昼の部に行ってきました。

あの市川海老蔵は降板となり、『阿国歌舞伎夢華』で担うはずであった出雲阿国の恋人「名古屋山三」役を片岡仁左衛門が務めていました。夜の部でも『外郎売』曽我五郎役を片岡愛之助が代役しているとのことでした。降板が決まったのが11月25日にも関わらず、カタログが全て刷り直されていたのには少し驚きました。

海老蔵問題は、テレビのワイドショーで大賑わいです。11月25日、東京都港区の飲食店で殴られて大けがを負ったとして、警視庁が傷害罪の容疑で男性(26歳)の逮捕状を取っていましたが、10日に逮捕したということです。これまでも、その加害者側のグループメンバーからの言い分なども出てきて、海老蔵の記者会見での発言などの言い分との食い違いなどが、連日報じられて、大変です。しかし、この海老蔵事件は、法律問題が山のようにあります・・・(写真もしくは「続きを読む」をクリックして本文をお読みください)。)(Photo by (c)H.Miki )
 

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師走の12日(日)、恒例の京都南座での吉例顔見世興行の昼の部に行ってきました。
あの市川海老蔵は降板となり、『阿国歌舞伎夢華』で担うはずであった出雲阿国の恋人「名古屋山三」役を片岡仁左衛門が務めていました。夜の部でも『外郎売』曽我五郎役を片岡愛之助が代役しているとのことでした。降板が決まったのが11月25日にも関わらず、カタログが全て刷り直されてたのには少し驚きました。

海老蔵問題は、テレビのワイドショーで大賑わいです。11月25日、東京都港区の飲食店で殴られて大けがを負ったとして、警視庁が傷害罪の容疑で男性(26歳)の逮捕状を取っていましたが、10日に逮捕したということです。これまでも、その加害者側のグループメンバーからの言い分なども出てきて、海老蔵の記者会見での発言などの言い分との食い違いなどが、連日報じられて、大変です。(Photo by (c)H.Miki )

伝えられる海老蔵の言い分は、飲食店で知り合ったメンバーと飲んでいて、その後酔いつぶれた人を介抱していたらいきなり殴られたとのことのようですが、他方では、灰皿でテキーラを飲ませようとしたとか、先に暴行を働いたとか、暴言を吐いていたとか、入店を断れたものの勝手に相席したので客は全員退店したとか、グループメンバーを引きずり回して水をかけたとか、泥酔した元リーダーの口にペットボトルを突っ込んで、無理やり水を飲ませたとか、6階の店で無銭飲食したとか、 何がなんやら分かりません。あまりの情報過多で、どこまでが本当で、どこからが虚偽なのか、まったく混沌とした状況のようです。

法律問題の山

この事件を、弁護士の目で見ていると、想像するだけで「解決しないとならないであろう法律問題がゴロゴロ」です。

何をおいても、傷害事件そのものの問題です。被害者としての被害届をしていますが、何やら、場合によったら自らも傷害罪などの刑事被疑者になりかねない勢いです。また、傷害に対する当事者間での損害賠償問題が、双方ともに複雑に絡むことになりそうで、刑事事件処理も睨みながらの駆け引きが想像されます。

さらには、これは直接的には松竹の問題でしょうが、穴を空けた南座顔見世興行、年明けの座長公演「初春花形歌舞伎」の公演中止などの損害処理があります。また、来夏公開予定の映画「切腹」に出ていたようですが、公開が未定になったようで、その点の諸問題もあるかと思います。さらには、テレビCM(伊藤園、ピップエレキバン、ヤマキめんつゆ)の中止もあり、はたして損害額はいくらになっていくのか、勝手に心配するばかりです。

「市川カニ蔵」芸を封印せざるをえなくなった香取慎吾に対しては、賠償問題は生じないと思いますが。

そもそも、冷たく眺めれば、「酔っ払いの喧嘩」のような様相で、こういうケースは、当事者の言い分が大きく食い違うことが通常です。法律事務所では、こういった事件がときどき舞い込んできますが、加害者サイドにせよ、被害者サイドにせよ、双方の主張する事実の一致はほとんどなく、ましてや酒が入った場での事件となるとさらに厄介です。通常は、こういった市井の騒動の場合に、被害者が警察に被害届を出しても、よほどの重傷でない限りは、示談をするように勧められるだけで、真剣に捜査をしてもらえることは稀です。

今回、警視庁は男の逮捕状を取って実際に逮捕するなどしていて、かなり当初から動いているのは、「有名人だから」、「マスコミを騒がしているから」といった理由が大きいものと思います。ただ、背景に暴力組織の影があるような報道もあることから、もしかしたらそれも影響しているかもしれません。

逮捕とは

今回、加害者とされる男の「逮捕状が出た」という報道が早くからなされていました。このため、「逮捕がいつか」とか、「逮捕状が出ているのに、なぜすぐにつかまらないのか」とか、結構、逮捕という言葉が取り上げられていましたが、中には法律への誤解に基づいた報道やコメントも散見されました。そこで、少し「逮捕の基礎知識」を。

「逮捕」には次の3種類があります。

①  通常逮捕、②緊急逮捕、③現行犯逮捕

通常逮捕とは、事前に裁判官から発付された「逮捕状」に基づいて、被疑者を逮捕することで、逮捕の原則的な形態です。今回のケースはこれになります。

緊急逮捕は、「急を要するためにまず被疑者を逮捕し、後に逮捕状を求めるという手続」で、現行犯逮捕とは、「現に罪を行い又は現に罪を行い終わった者(現行犯人)を拘束すること」で、何人でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができます。

逮捕状は、検察官又は司法警察員(捜査に関して、巡査には認められない特別の権限を付与された警察職員のことをいいます)が、裁判官に請求して発行を求めます。

逮捕状の請求を受けた裁判官は、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(嫌疑の相当性)と「逮捕の必要性」を審査して、発付するか却下するかを判断します。法定刑の軽微な事件の場合は、被疑者が住居不定の場合又は正当な理由がなく任意出頭に応じない場合のみに限られます。

「逮捕=有罪」という誤解

上記のように、逮捕状交付には、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があれば可能ですので、まだ「疑い」の段階でしかありません。しかし、一般の多くの人は、「逮捕=有罪」のイメージを抱きがちで、身柄確保の時点で、いまだに「犯人逮捕」と呼ぶテレビレポーターも見かけますが、大間違いです。

逮捕された後

逮捕されると、警察の留置場か拘置所に収容されます。「逮捕」の手続としては最大72時間の間、身体拘束をされ、48時間以内に検察官の元へ連れて行かれます。これを「送検」といい、新聞など書かれる「身柄送検」がこれです。そこで、検察官が、定まった住所がないとか、逃亡や証拠隠滅を疑うに足りる相当な理由があり、身体拘束を続ける必要があると考えれば、その後24時間以内に、裁判官に「勾留」の請求がされます。

この勾留請求があると、今度は、裁判所に連れて行かれて、裁判官から直接に言い分を聞かれ(勾留質問といいます)、引き続き拘束するかどうかが判断されます。この際に、裁判所を通じて当番弁護士を依頼することもできます。

勾留期間は、まず10日となっていますが、更に10日以内の延長ができることになっていて、最大20日間まで勾留されることが多くあります。

勾留が決定すると、検察官は、裁判官が認めた勾留期間の終わるまでに、起訴するかしないかを決めます。起訴がされると保釈申請が認められない限りは原則として勾留が継続されますが、不起訴か処分保留になると釈放されます。犯罪が比較的軽く、50万円以下の罰金または科料が相当と検察官が判断したときは、被疑者自身の同意により「略式手続」(略式命令)という処理で書面だけで裁判がなされ起訴と同時に釈放されることもあります。

いずれにせよ、全ての段階で弁護士を弁護人として選任することができます。
 

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