大阪プライム法律事務所

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罪に問われたカンニング

11.03.15 | ニュース六法

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京都大など4大学の入試問題がインターネットの掲示板「ヤフー知恵袋」に「解答」を募る投稿がされた事件で、京都府警は3月3日、男子予備校生(19)を偽計業務妨害容疑で逮捕しました。カンニングが罪に問われたことは過去にあるのでしょうか。・・・(写真または続きを読むをクリックして本文をお読みください)(写真:京都風景写真館フリー素材)
 

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京都大など4大学の入試問題がインターネットの掲示板「ヤフー知恵袋」に「解答」を募る投稿がされた事件で、京都府警は3月3日、男子予備校生(19)を偽計業務妨害容疑で逮捕しました。カンニングが罪に問われたことは過去にあるのでしょうか。

世間を大きく騒がしたこの事件。入学試験も携帯電話も、多くの人が何らか語る事のできるところであり、またミステリー的なところもあって、ここ数日、人が集まれば、決まってこの話題でした。どのようにして、試験会場から投稿したのだろうか。共犯者がいたのか。愉快犯か。


ところが、いざ男子予備校生が捕まってからの報道を聞く限りでは、極めて単純な手口で、一人で普通の携帯電話に問題を打ち込み、また読み込んでいたという話。今度は、本当にそんなことができるのか、監督官は何していたのか、果ては、逮捕までしたのは行きすぎではないかまで、新たな話題を誘っています。


本来、カンニングは罪となるのか

カンニングそのものを直接に犯罪として規定した法律はありません。今回、逮捕された罪名は「偽計業務妨害罪」でした。通常は「業務妨害罪」として報道されることの多いこの罪名に「偽計」という冠がついて報道されたので、初めてこの罪名を覚えられた方が多いかもしれません。しかし、私ども法律家も、多くは、今回のようなカンニング行為にこの罪を適用したことを耳にした際には、なるほどと思ったり、少し強引ではないかと思ったりと、意見が多少割れていたように思います。


業務妨害の罪

この罪は、刑法の第233条、234条に定めています。

第233条が「偽計業務妨害罪」を定めたもので、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。」と定められています。第234条は、「威力業務妨害罪」というもので、「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」としています。


カンニングが「業務妨害」に当たるかどうか

威力か偽計かを考える前に、この点が問題になると思います。法律学の学説では、業務妨害罪は外形的に実際に業務が妨害されたということを必要としているものがありますが、裁判例の傾向は、業務に支障が出る「おそれ」があれば成立すると一般に解釈されています。今回のようなケースで言えば、判例の傾向から言えば、試験の運営上支障が出る「おそれ」があったということで、業務妨害にあたると言える可能性はあるとは考えられます。一方で、入学試験そのものは平穏に終わっていることや、大学自体の業務に支障が出たほどではないとして、この罪の成立に疑問が無いわけではありません。


「偽計」と「威力」の違い

今回の「偽計業務妨害罪」と、「威力業務妨害罪」とはどう違うのでしょうか。偽計は、「間接的、無形的」な方法で人の業務を妨害する行為を処罰し、威力は「直接的、有形的」な方法で人の業務を妨害する行為を処罰するとして区別されています。このように、両方の違いは、観念的に分類はできるのですが、実際の事件での適用においては、結構難しいものです。典型的な例でよく言われるのは、料理屋に他人の名前をかたって「親子丼10杯」などと虚偽の出前注文をするのが偽計で、力づくや大声を出して仕事を妨害するのが威力業務妨害にあたります。


「偽計」の定義についての最高裁判例は、どうも見当たりません。高裁判決では、「刑法233条にいう偽計を用いるとは、欺罔行為により相手方を錯誤におちいらせる場合に限定されるものではなく、相手方の錯誤あるいは不知の状態を利用し、または社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させるような手段術策を用いる場合を含むものと解するのが相当である。」としたものがあります(東京高裁昭和48年8月7日判決)。


具体例

このように、「不当に困惑させる手段」の利用などがキーワードのようですが、以下のような例が偽計業務妨害になっています。

①各地の百貨店等に販売のため陳列されている寝具計280点に計469本の縫針を差し込んだ行為

②電話で他人を装って、商品を注文して、その他人の家まで配達させ、業務を妨害した行為

③インターネット掲示板で、駅で無差別殺人を実行する旨の予告をし、警察官らが警戒等して本来の業務遂行を困難ならしめた行為

④前後249回にわたって公衆電話から電話をかけ、被害会社の者が対応するや、「ブー」などと言ったり、無言で対応させたりすることを執拗に繰り返し、その間、被害会社の電話の発信又は着信を困難にさせた行為

⑤ 海上保安部に電話を掛け、「正面の海面に筒のような物が浮き上がってきてふたが開き、中からアクアラングの格好をした五~六人の男が出てきてその場を去って行った。この者たちは、日本語ではない言葉を交わしていた。」などと虚偽の事実を告げ、海上保安部の本来の業務の遂行を困難ならしめた行為


替え玉受験の場合
入学試験での不正行為の代表格として「替え玉受験」があります。この場合は、業務妨害ではなく、名前欄に実際に受験している人と別の人の名前を書いたという点をとらえて、「有印私文書偽造罪」として立件した事件がありました


盗み見によるカンニングは?

業務妨害となるためには、試験遂行業務に支障が出る「おそれ」が必要ですが、盗み見というような単純なカンニングの場合は、単に個別的な業務での支障程度では偽計業務妨害に当たらないと考えられます。今回の京都大学での場合は、外部サイトにテスト問題を発信公表したことから、広く試験という業務自体を混乱に落とし込んだ点から、偽計業務妨害としての立件に踏み込んだものと思います。


告訴は妥当か

今回の大学による刑事告訴については、大学の自治という観点からして安易に過ぎなかったか、また、未成年者による軽率な行為に対して、本来は合格取り消しという処分のみに留めて、可塑性のある未成年者の将来への配慮の余地がなかったか、少し疑問に思う次第です。ただ、当初は複数犯による計画的・組織的な犯行との見方もあったことから、警察力での捜査が必要であったと判断したとも言えるので、結果だけ見ての批判は、控えるべきかとも思われ、どうも、すっきりしない感も残るところです。
 

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