最高裁が「体罰」問題で判決しました
09.05.06 | 企業の法制度
熊本県天草市の小学校で、男の先生が、当時2年生の男子児童の胸もとをつかんで体を壁に押しあてるなどしてしかった行為が、「体罰」にあたるかどうかが争われた裁判で、最高裁判所は、今年の4月28日、「体罰にあたらない」という判断を下しました。 (イラストby.16snow)
熊本県天草市の小学校で、男の先生が、当時2年生の男子児童の胸もとをつかんで体を壁に押しあてるなどしてしかった行為が、「体罰」にあたるかどうかが争われた裁判で、最高裁判所は、今年の4月28日、「体罰にあたらない」という判断を下しました。 (イラストby.16snow)
一、二審の判決
地裁・高裁では、これを体罰と認め、市に賠償を命じていましたが、この判決を破棄したものです。
今回の最高裁の判決
最高裁の判決によると、男の子が休み時間に廊下を通りかかった女の子をけり、注意した先生のおしりを蹴ったことから、この先生が男の子の胸もとをつかんで体を壁に押しあてて、注意をしたものでした。その後、この男の子は食欲がなくなったなどとして、一時、通学せず、親権者が法定代理して、学校を設置している天草市に損害賠償請求をしました。最高裁は「指導するためにしたことで、肉体的苦痛を与えるためではない」と指摘しました。
この判決は、多くのマスコミが、いろいろな角度から報道・論評したので、関心を呼びました。短い判決文なので、正確な事実は分かりにくいのですが、最高裁の判断は「当たり前」の結論と感じた方が多いのではないでしょうか。
この判決をじっくり読むと、先生の行った有形力の行使は、「目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなかった」という、常識的な判断を行っただけのようす。どうして、一、二審が賠償を命じたのかが、むしろ分かりません。
日本の学校教育
日本では、学校教育法第11条で、校長および教員は、懲戒として体罰を加えることはできないとしています。違反に対する直接の罰則はありませんが、刑法上の暴行罪や傷害罪に当たる場合は、刑罰に処せられます。有罪判決を受けた場合は、懲戒処分となることもありますし、また、損害賠償請求という民事上の責任が問われることもあります。
文部科学省初等中等教育局長通知
ただ、体罰となるのはどこからかが、分かりにくいため、文部科学省初等中等教育局長が、平成19年2月5日の通知(18文科初第1019号)の中で、「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方」を取りまとめています。この中では、体罰かどうかは「当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある」としていて、結局はケースバイケースで判断するだけで、明確な指針とも言えません。
今回の最高裁判決は、実は、この文部科学省の「考え方」を超えるような判断基準を示したというわけでないように思われます。行政解釈だけではなく、裁判所として判断基準を示したという意味はあるとは言えますが。
先生の悩みは?
マスコミや世論は、この事件の結論はともかく、「これで体罰を許容するような拡大解釈を許してはならない」という慎重論と、「これを機会に、先生は自信を持って毅然たる指導を」という積極論が交錯しているように感じます。双方の観点から押される先生らにとっては、新たな迷いが生まれていないか、心配です。今回の判決が、明確な判断基準となったかというと、そうではないと考えられるので、ますます現場での悩みが増えたのかもしれません。
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