大阪プライム法律事務所

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違法ダウンロード刑罰化~大変かも?

12.07.09 | 企業の法制度

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本年6月20日、違法にアップロードされた有償の音楽・映像の著作物等を違法と知りながらダウンロードする行為に対し、刑罰規定が新設されました。「違法ダウンロード刑罰化」を含む著作権法の一部改正案が参議院本会議で可決されたものです。2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金(又はその併科)です。本年10月1日から施行されます。

この結果、自宅でクリック一つで簡単に実行できてしまえる違法ダウンロードに対して、これを犯罪として刑事罰が課される事態が起こりえることになりました。大多数の国民が罰則の対象となり得る規制です。このため、ある日いきなり、自宅にいた息子や娘が、警察に摘発される日が来ないとも限りません。ここまでの強制権限で摘発を行うことに、なにか問題点がないのでしょうか。

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これまでの改正経過
ネット上には違法にアップロードされた音楽や映像があり、これを容易に無料で入手できるという現状があります。このことは、正規のコンテンツ産業の健全な成長にとって有害であることは、言うまでもありません。このため、平成21年の著作権法改正で、違法にアップロードされたものと知りながらそれをダウンロードする行為は「違法」と規定されました。

実は、平成21年改正までは、これが「私的使用目的」で行われる限りは著作権法30条1項但し書で「適法」とされていました。平成21年の改正によって、同法に30条1項3号が新設されて、権利者に無許諾でアップロードされたものと知りながら音楽や映像をダウンロードする行為が例外の対象から外され、民事上違法となり、権利者からの差止及び損害賠償請求の対象となりました。しかし刑事罰の対象とはされませんでした。

この民事上の違法行為に対して、さらに一歩進んで、懲役刑・罰金刑を科することになったのが、今回の改正です。

賛成する意見
この改正を支持する意見としては、民事上の責任だけでは保護に限界があり、特に不特定多数により侵害されやすい中では損害賠償請求だけでは十分な保護が出来ない、というのが、代表的かと思います。

反対者の危惧
他方、日本弁護士連合会では、民事的に違法とするのはともかく、刑事罰を導入することに関しては、強く反対してきました。なぜでしょうか。

反対理由は多岐にわたりますが、その主なものを挙げると以下の通りです。
①私的領域における行為に対する刑事罰導入には極めて慎重であるべきであること。
私的生活領域における刑事罰導入は、人間の行動の自由に対する広汎かつ重大な制約を課すものであって、その導入は特に慎重であらねばならないところ、違法ダウンロードに対する刑事罰導入は、個人の私的生活領域における行為に対して刑事罰を科すもので、国家の力が私的領域に入り込む結果になることの問題です。
②ある行為を犯罪として処罰するためには、犯罪とされる行為の内容が明確でなければならない(罪刑法定主義から導かれる明確性の原則といいます)のに、一般の人に違法かどうかの判断を求めるのは酷な場合が多いと思われるという問題です。こういった行為が違法で、行うと刑事罰を受けるという認識が、いまだ希薄な現状で、刑事罰を科すのは危険だということです。 

特に違法ダウンロード行為は、未成年者などが多く行っていると想像されることからして、家庭に警察が踏み込む怖さを考えると気になるところです。

乱用への不安
もし、極端な考え方をしてしまうならば、警察はこの刑罰規定を最大限に「活用」するならば、捕まえたい者を、この違法ダウンロードを理由に逮捕して、その後に別件について取り調べるなどの悪用が可能になりえます。ある意味で危険な法改正との意見も多くあります。

改正法は10月1日より施行されますが、どのように運用されることになるのか。適正な運用がなされるか、気になるところです。

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