大阪プライム法律事務所

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民法改正論議~個人保証原則禁止の動き

13.04.11 | 企業の法制度

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法制審議会で、120年ぶりとなる民法の大改正の動きが進んでいます。民法は国民の生活の基本的な部分の規律を定めた法律ですから、その改正内容は日常生活に大きな影響を与えることになります。そうする中、この2月に、法制審議会の中の「民法改正(債権関係)部会が、中間試案を取りまとめた」というニュースが大きく報じられました。
この中に、中小企業の融資で経営者以外の個人の連帯保証を原則無効とするなどの、個人保証の原則禁止に向けた動きがあります。どのようなものでしょうか。

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現在の審議状況
民法のうちの債権関係の改正については、法制審議会で3つのステージで議論が進められています。第1ステージは「論点整理」で、2011年4月に中間的な論点整理が公表されました。第2ステージは、中間試案に向けての審議ということで、今回、その中間試案が出されました。これは今後のたたき台で、債権法のうち約300項目について改正の方向が示されています。これからは、この中間試案がパブリックコメントにかけられ、それを踏まえて、いよいよ第3ステージの改正要綱案の取りまとめに向けた審議が始まります。

主な改正案の内容
 ・不特定多数との取引に使われる「約款」の規定を新設
 ・暴利行為規定や認知症の高齢者など判断力を失った状態での契約無効
 ・中小企業の融資で経営者以外の個人保証の原則無効
 ・1~3年の短期消滅時効を廃止し5年に統一
 ・法定利率年5%の変動制化 等

保証問題について
保証とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、その債務を主たる債務者に代わって履行する義務を負うことを言います。分かりやすく言えば、他人の借金の支払いに関して責任を負うものです。

本来は簡単になってはならないものですが、多くの場合、借金をしないとならない人物から、「絶対に迷惑をかけないから」と頼まれて、ついハンコをおしてしまうケースが多くあります。ところが、忘れた頃に債権者から多額の保証債務の履行を求められ、生活が破壊され、人間関係までが崩壊する事態になる深刻な事例が後を絶ちません。日本弁護士連合会(日弁連)の2011年破産事件及び個人再生事件記録調査でも、破産の約19%、個人再生の約9%が保証等を原因としています。生活破綻に陥った保証人が自殺する事例や、主債務者が自分の保証人に迷惑をかけることを苦に自殺する事例も多く報告されています。

このような深刻な社会問題を引き起こす保証について、法制審議会民法(債権関係)部会がこれを大きく制限する方向で検討しはじめました。これは、大いに評価することができると思います。

ただ、残念なことには、今回の中間試案の内容は、債務者が消費者である場合や、貸金等債務以外の債務を主たる債務とする場合には、依然として個人保証を許容するものになっていて、不十分な面があると言わざるを得ません。

保証制度に対する改正案経過
融資の保証については、すでに2004年の民法改正で、保証人が極度(借入限度額)や期限の定めなく責任を負う「包括根保証」は廃止され、特定の貸出について保証を求める「特定債務保証」、期限や債務金額に限度を設けた「限定根保証」が一般的となっています。

また、第三者による個人連帯保証も、金融庁は2011年11月に金融機関の監督指針・金融検査マニュアルを改訂し、原則として徴収しないことになりました。

残るは、会社の債務に関する経営者保証や、主債務者が消費者個人の保証の場合、賃貸借契約の保証などの扱いについて課題になっていました。日弁連などは、民法の規定に個人保証の禁止を盛り込むべきとの意見書を提出するなど、個人保証制度の全面廃止(原則無効)が論議の対象になっていました。

消極意見の続出
この個人保証の廃止には、多くの業界から、様々な理由で消極的な意見が出され、大きく後退していきました。特に金融機関側からは、「経営者本人の個人保証は、企業の経営者のモラルハザードを回避するための措置として有効であるし、もし経営者の個人保証を廃止すれば中小企業向け融資はしにくい」、「個人保証があれば金利や期間、融資金額が優遇できるが、なくなれば厳しい査定になり、困るのは企業だ」というものが代表的な意見でした。

中間試案の内容
その結果、中間試案では、個人保証の原則廃止という考え方をとらず、ごく限定された範囲で個人保証(第三者保証)を廃止しようという考え方になりました。具体的には、貸金等の「根保証契約」や、債務者が事業者である貸金等債務を主債務とする保証契約であって、保証人が個人であるものについて、保証人が「主たる債務者のいわゆる経営者であるものを除き」、無効とするかどうかについて、引き続き検討するとしています。今後は、「いわゆる経営者であるものを除き」という点が、今後の審議の争点になるように思われます。

このため、貸金等の保証全般ではなく、借りる人が事業者ではない、いわゆる消費者(親族、知人など)が借りる場合に保証人となる場合は、従来と同じように有効なものとなっています。

また、借家契約や、高齢者施設利用などの契約に関する保証など、将来にわたって発生していく債務(利用料等)についても、この債務(利用料等)は「貸金等」の債務ではないので、中間試案では、保証人を求めることができることになっています。

どのように考えるべきか
保証制度については、深刻な被害実例は見逃すべきでないことから、原則的には廃止する方向で検討すべきかと思います。例外的に許容されるのがどこの範囲かが大きな問題になりますが、廃止することによる社会的弊害が大きい場合に限るべきであろうと思います。法人代表者の経営者による保証については、現時点では、保証が信用を補う方法として重要な役割を持っていることから、存続は否定できないものと思います。

これ以外に個人保証を認める範囲をどこにおくかですが、個人保証を例外的に認める必要性を検討した上で、例外が過度に広がらないよう配慮する必要があると思います。

保証人保護の方策の拡充
このように、保証の原則無効については大きく後退していますが、保証人保護の方策の拡充については、中間試案は、多くの方法を示して、引き続き検討することとしています。保証人が個人である場合、想定していなかった多額の保証債務の履行を求められ、生活の破綻に追い込まれるようなケースを想定して、個人保証人を守るべきことが示されています。

その一つは、契約締結時の説明義務、情報提供義務です。事業者である債権者が、個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合に、保証人に対し、保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うことや、主債務の内容、主債務者の信用状況などを説明しなければならないものとし、債権者がこれを怠ったときは、保証人がその保証契約を取り消すことができるものとするという方策です。

また、主債務についての期限の利益の喪失を回避する機会を保証人に付与するために、主債務者の返済状況を保証人に通知することを債権者に義務付ける等の方策について、引き続き検討すべき課題として取り上げています。

さらに、「裁判所が、主たる債務の内容、保証契約の締結に至る経緯やその後の経過、保証期間、保証人の支払能力その他一切の事情を考慮して、保証債務の額を減免することができるものとすること」、「保証契約を締結した当時における保証債務の内容がその当時における保証人の財産・収入に照らして過大であったときは、債権者は、保証債務の履行を請求する時点におけるその内容がその時点における保証人の財産・収入に照らして過大でないときを除き、保証人に対し、保証債務の[過大な部分の]履行を請求することができないものとすること」も、検討するものとしています。

これらは、保証人の保護のためには、非常に有意義で不可欠な案であり、ぜひ、前向きに導入を進めてもらいたいものと思います。

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