大阪プライム法律事務所

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民法改正論議~時効が変わる?!

13.05.12 | 企業の法制度

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前回もお伝えしましたが、法制審議会で、120年ぶりとなる民法の大改正の動きが進んでいます。その中で、時効の改正議論もあります。債権の消滅時効は、現在のところ、原則10年でありながら、「飲食料債権(いわゆる飲み代)は1年」「工事請負代金は3年」などは短期消滅時効と言って、細かく規定されています。このばらつきがある債権の消滅時効を統一する方向で検討に入っています。この短期の消滅時効が3年、4年または5年で統一された場合、現在、2年以下となっている債権の時効期間が1~2年以上延びることになります。

飲食代の請求を1年以上ためられていて、時効に涙を呑む料亭の女将やクラブのママさんにも朗報だと思います。時効期間のばらばらさは、弁護士でも時々勘違いするほど、厄介なものですが、日常生活に支障が生じることはないのでしょうか。

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現行の法制
債権の消滅時効については、民法のほか、商法や労働基準法その他の各種法律で細かく規定されています。このうち、民法で規定されているのは、下記のとおりです。

■原則10年(民法167条)
■職業別の短期消滅時効(民法170条~174条)
3年:医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
   
工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
   
弁護士等のその職務に関して受け取った書類についての責任
2年:弁護士等の職務に関する債権(報酬請求権等)
 
   生産者、卸売商人、小売商人が売却した商品等の売掛債権
   
居職人・製造人の仕事に関する債権
   
学芸・技能の教育者の教育・衣食・寄宿に関する債権
1年:月又はこれより短い期間で定めた使用人の給料
   
労力者(大工・左官等)・演芸人の賃金、その供給した物の代価
   
運送費
   
ホテルや旅館の宿泊料
   
旅館、料理店、飲食店等の飲食料
   
貸衣装など動産の損料
■定期金債権等の消滅時効(民法168条、169条)
定期金債権は、第一回の弁済期から20年、最後の弁済期から10年
1年以下の時期を定めた定期給付債権は5年
■不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条)
消滅時効3年、除斥期間20年
■判決が確定した場合(民法第174条の2) 確定時から10年

中間試案における消滅時効に関する主な改正ポイント
(1)職業別の短期消滅時効(170~174条)の廃止
(2)原則的な民事消滅時効を10年から短縮
【甲案】「権利を行使することができる時」という起算点を維持した上で5年とする。
【乙案】「権利を行使することができる時」という起算点から10年という時効期間を維持した上で、「債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時(注)」という起算点から、3/4/5年と権利行使可能時から10年の早い方で消滅時効とする。(注:債権者が権利を行使することができる時より前に債権発生の原因及び債務者を知っていたときは、権利を行使することができる時)
(3)定期金債権の時効期間を一律に10年
(4)不法行為による損害賠償請求権の除斥期間20年を時効期間とする
(5)生命・身体侵害による損害賠償請求権の時効期間を現在よりも長くする
(6)時効の「中断事由」という用語を「更新事由」とする
(7)裁判上の請求,支払督促などを、時効の「停止事由」とする
(8)債権の一部についての訴え提起を「債権全部の時効停止事由」とする
(9)催告は一度だけしか6か月間の時効停止の効力を有しないことを明示
(10)天災等による時効停止期間を、2週間から6か月に延長
(11)当事者の協議を時効停止事由とする
(12)消滅時効が援用によってはじめてその効果を生じることを明示 

時効期間の統一と短縮化について
上記の改正議論のうち、(1)と(2)の問題ですが、現在、職業別に細かく定められている時効期間について区分を設けることの合理性に疑問があることから、原則的な時効期間も含めて統一化・単純化することはいいことだと思います。また、今回の民法(債権関係)改正が目指す「国民一般に分かりやすい民法」という点からも望ましいことだと思います。飲食代の請求を1年以上ためられていて、時効に涙を呑む料亭の女将やクラブのママさんにも朗報だと思いますが、忘れたころに、ずいぶんと前の飲食代金をいきなり請求を受けて戸惑う客も出てくるかもしれません。 

ただ、どのように統一化・単純化するかについて、「権利を行使することができる時」から5年とする甲案と、「権利を行使することができる時」ときから10年と「債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時」から3/4/5年とのどちらか早く到来した時点を消滅時効とする乙案とが激しく対立しています。 

時効障害事由の議論
今回の時効改正議論において、時効障害事由もなされています。これは、時効の進行や完成を妨げる事由のことをいいます。現民法には、時効期間の進行をリセットする「時効の中断事由」(民法147条~157条)と、進行を一旦止める「時効の停止事由」(民法158条~161条)について規定があります。

今回の改正議論では、複雑な時効障害事由を見直して分かりやすいものにすることが検討されています。特に債権の消滅時効における原則的な時効期間を短くすることの検討と絡んで、仮に時効期間を短くするのであれば、消滅時効を主張される者を保護するために、この時効障害事由をより使いやすい制度に見直す必要があると言えます。 

今後の議論にも注目を
これらの時効制度をどう見直すかという問題は、庶民の日常生活や事業者の事業活動にも影響を及ぼす問題であることから、今後の議論に引き続き注目する必要があります。

 

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