大阪プライム法律事務所

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ハーグ条約の国内手続き法が成立 年度内にも施行

13.06.13 | 企業の法制度

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国際結婚が破綻した際の夫婦間の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」の実施のための国内手続き法が、この6月12日の参議院本会議で可決・成立しました。

この法律は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」といい、国際結婚が破綻して相手の承認を得ずに子どもを国外に連れ去った親が、もう一方の親から子どもを返すよう求められた場合、子どもを、それまでいた国に戻すとしたハーグ条約を実施するためのものです。どのような内容でしょうか。

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毎日新聞記事(2013年06月12日)
国際結婚が破綻した夫婦間の子の扱いを定めた「ハーグ条約」に加盟するための国内手続き法が12日午前、参院本会議で全会一致により可決、成立した。条約自体は5月の参院本会議で承認されており、早ければ今年度内に加盟が実現する。主要8カ国(G8)では日本だけが未加盟で、欧米諸国から早期加盟を強く求められていた。条約は、片方の親が16歳未満の子を国外に連れ去った場合、原則として子をいったん元の国に戻し、両親が子の養育にどう関わっていくかを決める国際ルール。

不安点
この問題の実態として、日本国に子どもを連れ帰ってきた親の大多数は母親です。したがって、この母親に対して、日本の裁判所が、命令で子を引き剥がし、外国に送ってしまうということになります。かなり悲劇的な場面が想像されます。
特に返還先がアメリカ合衆国の場合、子の奪取が同国の多くの州の刑法で刑罰の対象となっていて、自動的に日本の母親は、子に対する親権を失ってしまうだけでなく、子どもを法的に取り戻すために母親が米国に入国することすら困難になってしまいます。果たして、どのような運用がなされていくのでしょうか。

国内法の概要
●外国返還援助申請
片方の親に子を不法に日本に連れ去られた外国(条約加盟国)の親は、日本の外務大臣を通じて子の返還を求めることができる。
●申請の却下
外務大臣は、以下のいずれかに該当する場合は、その申請を却下する。
(1)子が16歳に達しているとき
(2)子が日本国内に所在していないことが明らかであり、かつ、所在している国又は地域が明らかでないとき
(3)子が条約締約国以外の国又は地域に所在していることが明らかであるとき
(4)子の所在地と申請者の住所・居所が同一の国内にあることが明らかなとき
(5)子の連れ去りの時又は留置の開始の時に子の常居所地国が条約締約国でなかったとき
(6)子の常居所地国の法令に基づき申請者が申請に係る子についての監護の権利を有していないことが明らかで、又は子の連れ去りもしくは留置により当該監護の権利が侵害されていないことが明らかであるとき
●合意による子の返還等の促進
外務大臣は、外国返還援助決定をしたときは、対象となる子について、子の返還又は申請者との面会その他の交流を、両法の親の合意により実現するため、協議あっせんその他の必要な措置をとることができる。
●返還請求裁判
日本の親が自主的に子を元の国に戻さない場合、外国の親は日本で返還を求める裁判を起こせる。審理は、東京と大阪の家庭裁判所で非公開で行う。
●返還命令
裁判所は、子の返還の申立てが次の事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じる。
(1)子が16歳に達していないこと
(2)子が日本国内に所在していること
(3)常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること
(4)連れ去りの時又は留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと
●子の返還拒否事由等
裁判所は、以下の事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、(1)から(3)まで、又は(5)の事由がある場合でも、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
(1)子の返還の申立てが連れ去りの時開始時から1年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応しているとき
(2)申立人が当該連れ去り時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったとき
(3)申立人が当該連れ去り等の前にこれに同意し、又は当該連れ去り等の後にこれを承諾していたとき
(4)子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとき
(5)子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいるとき
(6)子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであるとき
●考慮事由
裁判所は、上記(4)の事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮する。
(1)子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(暴力等)を受けるおそれの有無
(2)相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
(3)申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無
●子の参加
返還を求められている子は、子の返還申立事件の手続に参加することができる。
●不服申し立て
当事者及び子は、終局決定が不服の場合は、高等裁判所に即時抗告をすることができる。高等裁判所の終局決定に対しては、その決定に憲法違反があることを理由とするときは最高裁判所に特に抗告をすることができる。
●強制執行
裁判所が引き渡しを命令し確定しても、連れ帰った親が子を戻さない場合、裁判所はその親に対し、子を返還するまで金銭の支払いを命じることができ、2週間たっても子を戻さなければ、執行官を派遣して強制的に子を引き離せる。 

今後の見込み
関連法の成立で、「ハーグ条約」の加盟に必要な一連の国会手続きが完了し、今後は、政府において政令や省令の整備を行いながら、条約事務局のあるオランダに加盟を申請するもと思われます。加盟申請後約3カ月後に発効し、同時に国内手続き法が施行される予定です。予測では今年度内と言われています。

事前の話し合いの重要性
この手続きによってなされる家裁の裁判は、法に基づいての厳格なものとなることが予想されます。このため、子の返還については、裁判手続によらずに、当事者の自主的な話合いの手続として民間型ADRの活用がなされるべきであろうと思います。
東京では東京の3つある弁護士会が運用するADRが、大阪では大阪弁護士会などがバックアップする公益社団法人総合紛争解決センターが、この問題に対する民間調停を進める準備を行っています。当事者における円満な解決が図るためには、きわめて有用な仕組みであろうと思います。

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