大阪プライム法律事務所

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民法規定の違憲判断と影響について

13.09.12 | 企業の法制度

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この9月4日に、最高裁判所大法廷は、民法の相続に関するある規定を憲法違反として無効という判断を示しました。これは、結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定(民法900条4号但書)が、法の下の平等を保障した憲法に違反するかが争われた2件の家事審判の特別抗告審として、この民法規定を「違憲」とする初めての判断を示したものです。14裁判官全員一致の結論でした。

この決定では、違憲の判断だけでなく、すでに決着済みの同種の事案については「影響を及ぼさない」という異例の言及を行った点でも注目されています。今後、どのような問題が生じ得るでしょうか。

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今回の訴訟事案について
今回、争われているのは、平成13年(2001年)7月に死亡した東京都の男性と、その同じ年の11月に死亡した和歌山県の男性らの遺産分割をめぐる問題です。いずれも家裁、高裁は、非嫡出子(非嫡出子)の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定を合憲と判断したため、これに不服な非嫡出子側が特別抗告していたものでした。

今回の大法廷決定は、非嫡出子の出生数や離婚・再婚件数の増加など、婚姻、家族の在り方に対する国民意識の多様化が大きく進んだこと、諸外国が非嫡出子の相続格差を撤廃していること、国内でも平成8年に法制審議会(法相の諮問機関)が相続分の同等化を盛り込んだ改正要綱を答申していたことなどの社会的変化に言及しつつ、「子にとって選択の余地がない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、権利を保障すべきだという考えが確立されてきている」としました。その上で、遅くとも、この事案で相続が発生した平成13年7月の時点で「嫡出子と非嫡出子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていた」と結論づけたものです(これでこの事件が終わったのではなく、改めて審理するように、各高裁に差し戻しています。)。

違憲判断が他の同種事案に与える影響に関する説明
なお、この最高裁決定においては、さらに、この違憲判断が他の同種事案に与える影響について言及し、決定文の中で、以下のように述べました。

(最高裁決定理由中の表現)
「本決定の違憲判断は、A(被相続人)の相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。」 

これは、「平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると、その間に、本件規定の合憲性を前提として、多くの遺産の分割が行われ、更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される」として、「本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。」としたうえで、審判や分割協議などで決着した事案には、影響を及ぼさないとしたものでした。 

結論から言えば、平成13年7月以降に始まった相続の中で、嫡出子と非嫡出子の双方が存在している事案で、遺産分割協議が未解決のものについては、今回の最高裁決定の通り、平等の相続分として協議をすることができますが、分割審判やその他の裁判、遺産分割協議その他の合意等で確定的なものとなっていた場合は、改めてこれを覆さないでよい、としたものです。 

非嫡出子の中には、決着をつけずに待っていて良かったという方もあるものと思います。一方で、早期に2分の1のままで合意して解決したことを悔やむ方もおられるかもしれません。同じ時期に発生した相続であるのに、早期に裁判や合意などで確定したという偶然の事情で、ある非嫡出子は救済され、別の非嫡出子は救済されないという結論は、公平を失するのではないかという気もしますが、最高裁は、それよりも法的安定性を重視したものと思います。 

合意等で確定的なものとは何か
ただ、「合意等で確定的なものとなっているかどうか」の判断が微妙なケースもあると思われます。この点については、今回の決定の中では、何をもって確定的なものかについて「その後の関係者間での裁判の終局、明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて、法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。」と表現していますが、この点が今後に紛争として生じ得るかもしれません。 

(1)確定判決・審判で確定していた場合
この場合については、今回の最高裁決定からすれば、もはや確定的なものとなっていることに疑義はないものと解されます。

(2)遺産分割調停で調停が成立していた場合
この場合も、同じく、もはや確定的なものとなっていることに疑義はないものと解されます。

(3)当事者間での遺産分割協議の成立
基本的には、これも多くの場合は、確定したものとされるものと思います。しかし、この場合においては、裁判所などが関与していないこともあって、非嫡出子側が、本件2分の1規定が違憲無効であるのに有効であると「誤信して」遺産分割協議をしてしまったので、これは要素の錯誤があり無効であると主張するような事案が出てくるかもしれません。ただし、この場合も、協議成立自体がその時点での判断でもって真摯になされていたのであれば、やはり調停合意と同じく、もはや確定したものと扱わざるを得ないものと解されます。ただし、協議書が作成はされてはいるが、相続人の署名捺印が本当にその本人がしていたものか否かが問われるような事案の場合は、確定的になっていたとは言えないので、係争の際に、今回の違憲判断の適用を求める余地があるものと思います。 

(4)可分債権について
少し厄介な問題として可分債権の場合の問題があるように思います。可分債権というのは、銀行預金などのように、法定相続分にしたがって分けることが可能なものを言います。最高裁は「相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする」(最判昭和30年5月31日)と述べていて、相続と同時に、自動的に分割されていくものです(たとえば預金債権について、これのみを取り上げて家裁に遺産分割審判を申立てたときには却下されてしまいます。各自の相続人が、金融機関に個別に請求していけばよく、相続人間の係争にはならないということです。)。 

このような預金について、例えば被相続人が3億円の預金債権を残して死亡し、法定相続分に従って嫡出子Aが2億円、非嫡出子Bが1億円の払戻しを受けていた場合で、その後、今回の最高裁による本件規定の違憲判決が出たことからすると、本来は、共に1億5000万円ずつの取得になることから、非嫡出子Bが嫡出子Aに対して5000万円の不当利得返還請求訴訟を提起する、というような事案が考えられます。 

共同相続人が相続財産中の可分債権につき権限なく自己の相続分以外の債権を行使した場合には、他の共同相続人は、侵害された自己の相続分につき不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるとした判例(平成16年4月20日最高裁第三小法廷決定)があること、相続財産中の可分債権については、法定相続分に応じて当然分割されてしまうため、確定裁判や協議書等が存在せず、銀行による弁済という事実のみが存在するという点で、問題が生じ得ます。このような場合は、審判や分割協議などで決着した事案とは言えないことから、おそらくその不当利得返還請求訴訟では、本件民法規定が基準時に違憲無効であったと判断されれば(今回の最高裁決定で、そのように裁判所は判断します)、嫡出子が5000万多く取得したことにつき法律上の原因が存在しないものとなるものと思われます。したがって、消滅時効が成立しない限りは不当利得返還請求は認容されるのではないでしょうか。 

さらに、もし、この非嫡出子Bが、当時は有効とされていた本件民法の規定に従って払戻しをした銀行に対して、間違って5000万円を余分に支払ってしまったのだから、本来の権利者である自分に返せという訴訟を起こす場合もあり得るかもしれません。ただ、このような場合は、さすがに、銀行に過失があるとはいえないので、民法478条の適用により、その請求は棄却になるものと思います。 

今後も民法規定の違憲判断はあり得るのか
今回は、時代の流れの変化から、非嫡出子への不利益規定が、従来は合憲だったのが違憲とされました。同じように、従来は合憲だったものが、今後の時代の変化で違憲に傾いていく可能性のあるものがあるでしょうか。

最も可能性が考えられるのは、女性の再婚禁止期間の制限規定(女性のみ離婚後180日は再婚を禁じる民法733条の規定)ではないかと思います。男性にはないこの規定については、女性差別、平等権を定めた憲法に違反しているという指摘も強くされています。最高裁判所は今のところ、この再婚禁止期間を合憲としており、最近も岡山地方裁判所で2012年10月18日に合憲であるとの判断が示されています。ただ、外国では女性の再婚禁止期間はかつては設けられていましたが、現在では廃止されている国が多いと言われていますので、将来の判例変更もあり得るかもしれません。これ以外にも、夫婦別姓制度についての関連規定についても可能性があるかもしれません。

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