大阪プライム法律事務所

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「社外取締役」の義務化見送り~会社法改正法案

14.01.14 | 企業の法制度

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平成18年(2006年)に施行された会社法の初の大幅改正作業が進んでいましたが、昨年11 月29日に会社法改正法案が閣議決定され、衆議院に提出されました。今年の通常国会で成立が目指されています。今回の改正では、オリンパスの巨額損失隠し事件や大王製紙巨額背任事件などもあって、企業統治をどう強化するかに注目が集まっていました。

そのような流れの中、取締役会に「外部の目」としての社外取締役を選任する動きは既に加速していて、日本取締役協会の調査では、社外取締役がいる企業は、東証1部上場で全体の46.7%と半数近くになっています。このようなことから、今回の会社法改正で議論の焦点となっていたのが、「社外取締役選任の義務化」問題でした。今回の改正案では、この辺りはどうなったでしょうか。

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会社法改正関連法案
今回、国会に提出された関連法案は次の2つです。
①会社法の一部を改正する法律案(会社法改正法案)
②会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(関係法律整備法案) 

これらは、法制審議会が採択した「会社法制の見直しに関する要綱」を踏まえ、会社法や関連する法律の改正を行うものです。成立した場合の施行日は、公布日から1年6ヵ月以内の政令指定日としています。 

会社法改正法案の骨子
法案には、骨子として、以下の①~⑤が盛り込まれています。
①社外取締役・社外監査役の社外要件の見直し
②多重代表訴訟制度の創設
③監査等委員会設置会社制度の創設
④支配株主の異動を伴う第三者割当に対する規制
⑤特別支配株主の株式等売渡請求制度の創設

このうち、目玉と言えるのは、「監査等委員会設置会社制度」の創設や、親会社の株主が子会社の経営陣の責任を追及できる「多重代表訴訟制度」の創設などが柱で、焦点だった社外取締役の設置義務付けは見送られました。しかし付則において、法施行から2年後に再度検討することが明記されました。

この中で、企業統治(コーポレート・ガバナンス)面で重要な、いくつかだけをご紹介します。

「監査等委員会」設置会社制度の創設
株式会社の新たな機関設計として、監査役を置かず、3人以上の取締役(過半数は社外取締役)によって構成される監査等委員会を設置するというものです。これに伴い、現行の「委員会設置会社」は、「指名委員会等設置会社」に呼び名を変更するとしています。 

社外取締役・社外監査役の要件の見直し
親会社等の一定の関係者、親会社等の子会社等の一定の関係者、取締役等の一定の親族については、「社外」と認めないことにしています。その会社又は子会社の出身者については、10年の冷却期間を認めました。(退任後10年が経過すれば、原則として「社外」と認められることとしています。) 

また、いわゆる責任限定契約(会社に対する損害賠償責任を一定の範囲に限定する契約)が締結できる範囲について、「非業務執行取締役」、「監査役(社内を含む)」まで拡大されることとしています。 

社外取締役を置いていない場合の理由の開示
監査役設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務が課されるものが、社外取締役を置いていない場合は、その事業年度に関する定時株主総会において、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を株主に説明しなければならないとしています。

これは英国で採用されている「COMPLY OR EXPLAIN」(応諾か釈明か)という手法を参考にしたものと言われていて、強制ではなく、会社の自由に配慮しながら、法の趣旨を緩やかに実現することを目指したものといえます。 

会計監査人の選任等に関する議案内容の決定
監査役設置会社(監査役会設置会社)においては、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任等に関する議案内容は、監査役(監査役会)で決定するものとしています。 

社外取締役の設置見送りについて
社外取締役選任を義務化する議論がありましたが、これに関しては、経済界の強い反対もあって見送られました。 

ただ、義務化を求める声がなお根強いため、付則で、法施行から2年後に再検討し、必要な場合には社外取締役を置くことの義務付けなど所要の措置を講ずるとしました。

義務付けは見送られましたが、上記の通り、設置しない場合には「社外取締役を置くことが相当でない理由」を、事業年度ごとの事情に基づいて事業報告書に記載させるとともに、株主総会に社外取締役を含まない選任議案を提出する際には、同様に「なぜ社外取締役を選任しないのか」についての理由を説明させることにしています。 

また、社外取締役が過半数を占める「監査等委員会」をつくった場合は、監査役を置かなくてもよい制度(監査等委員会設置会社制度)も作られています。その機関は、企業の監査とともに、株主総会で取締役らの人事に意見を述べる役割も担っています。 

東京証券取引所の動き
平成25年11 月29 日には、東京証券取引所において「独立性の高い社外取締役の確保に関する上場制度の見直しについて」が公表され、「上場会社は、取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならない」ことを内容とする制度の見直しを、平成26年2月から実施する方針を明らかにしています。 

今後について
企業統治をどう強化・向上させるかという観点からは、今回の会社法改正案は一歩前進と言えますし、前述の東京証券取引所の動きも一定の影響があるものと思います。 

しかし、今回の会社法改正法案では、あくまでも社外取締役の選任は任意であって、選任しない理由の説明も、そのうち雛型ができて、会社名だけを変えて対応する動きがあると思われます。義務化に賛成する経済同友会では、「定型的、表層的な釈明が許されれば、ルールが形骸化する恐れがある」と意見書を公表しているぐらいです。また、東京証券取引所の動きも、「義務付け」ではなく「努力義務」に留まっています。 

法務省サイドは、社外取締役を選任しない相当の理由を説明するのは難しいとして、実質的に義務化と同じ効果があるとみているようですが、大いに疑問です。 

社外取締役の義務化は早期に導入するとともに、社外取締役の独立性をより高め、企業不祥事を外部の目からチェックする体制を築くことが必要であると思います。できれば、複数の社外取締役の中に最低でも一人は弁護士などの法律専門家を選任するよう義務づける必要もあると思います。

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