大阪プライム法律事務所

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死刑執行後に生き返ったらどうなるか

13.12.14 | 企業の法制度

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イランの地元のテレビを通じて、死刑囚アリレザ・M(37)は、死刑を執行されたのですが、生き返ったというニュースが世界に流れました。絞首刑を生き抜いたこの死刑囚について、イラン政府が再度刑を執行するのかどうかが話題になっています。当初は再執行をするとのことでしたが、方向が変化したとも聞きます。

このような死刑執行後に生き返った事例が、実はかつて日本でもあったのです。(写真は、日比谷公園にある「自由の鐘」)

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イランでの報道
今回生き返ったアリレザという男性は麻薬密売の罪で死刑を言い渡され、2013年10月9日に、イラン北東部のボジノルド監獄で死刑が執行されました。その後、死体安置所へ運ばれ、医師の死亡鑑定を受けました。その翌日、親戚が死体を引き取りに来たところ、「息をして」いることがわかり、即刻病院へ搬送されて集中治療室に入れられました。死刑囚の容態は良好で、めきめきと改善に向かっているとのことです。

イランには1世紀以上にわたって、絞首刑の後も生き残った囚人には恩赦が下されるという伝統があるとのことでしたが、当初の報道では、アリレザに対し、再度刑を執行することを決定したとのことでした。 

この報道に対して、アムネスティ・インターナショナル中東北アフリカ担当ディレクターは、「九死に一生を得た男を待つ未来が再度の死刑執行であるとは、死刑制度の残虐性、非人道性を明らかに示す事例である。イラン政府は即刻アリレザの死刑を撤回すべきである」と述べていました。 

その後、AP通信がイランの各メディアを引用しながら、絞首刑を生き抜いたこの死刑囚について、イラン政府は再度刑を執行する必要はないと考えていると伝えているようです。果たしてどうなるのでしょうか。死刑制度の廃止の世界的流れもあり、気になるところです。 

日本で実例がある(石鐵県死刑囚蘇生事件)
日本では、明治5年に死刑囚が蘇生したという記録が残っています。「石鐵県死刑囚蘇生事件」というもので、「石鐵県」というのは、今の愛媛県です。当の本人の名前から、「田中藤作蘇生事件」とも言われています。この時は、再度の死刑執行は実施されず、新たに戸籍を作らせたと記録が語っています。 

この事件の発端は、「久万山・久米騒動」という騒動でした。1870年(明治4年)に、文明開化の政策に反感を持ち、環境や時代の急激な変化を恐れた久万の住民たちが、廃藩となった松山藩主をそのまま留め置くよう訴えた運動が広がり、同年8月に、多数の農民が暴徒化し、久米地方で、庄屋や組頭の家を襲撃して家財道具を破壊するなどしました。

翌年の明治5年に、この騒動の首謀者の一人として、田中藤作という31歳の男に死刑が宣告され、松山高石垣の監獄で絞首刑が執行されました。遺体は家族に引き取られ家に運ばれたが、その後蘇生したとのことです。原因としては、当時の執行方法が「絞柱」という器具(縄をかけ、その縄の先に約75Kgの重石を吊り下げて絞首する仕組み)であったが、処刑具としては不完全であっために仮死状態になったことと、自宅まで荷車で運んだ際の衝撃が心臓マッサージのようになって蘇生したのではないかと言われています。

家族からの届出で、県庁は前代未聞の事として処置に窮し、司法省に伺い書を提出、司法省は更に太政官正院に伺いを立てました。 

太政官が県に出した指令
太政官指令は、「既ニ法ニ従イ執行ハ終ワッテイルノダカラ、天幸ニ依ッテ蘇生シタ者ヲ、再ビ執行スル理由ハ無イ、直チニ原籍ニ編入セヨ」というものでした。つまり、生き返ったとしても既に法に従い刑罰としての執行は終わっているのだから、再び執行する理由はない、よって戸籍を回復させよというものでした。
 

太政官が何を参考にしてこういった決定を下したかについては、革命前のフランスでは絞首刑で蘇生した死刑囚に対して国王が赦免した事例があったこととされています。なお、その際に、合わせて県役人の責任問題も沙汰されましたが、これも検死に問題なかったとして処罰なしとなったようです。寛大な決定と思います。 

現代での適用について
死刑廃止の是非論はここではさて置くとして、もし、現在の日本で、同じような事態が生じることがあるかどうか、もしあった場合、再度の執行ということがあるでしょうか。「死ななかった死刑囚は釈放される」という都市伝説もあることから、気にされる方も多いかと思います。

ただ、前者の問題(蘇生すること)について言えば、絞首刑執行後の身体は一定時間そのまま置かれる(30分間が慣例とも言われています)とのことですので、現在では蘇生する可能性は皆無と解されます。したがって、後者の問題(再度の死刑執行)の議論はあまり意味がないものと思います。実際にも、法曹界や国会においてはこの部分の論議は見当たりません。

しかしながら、もし、そういった事態が生じた場合は、おそらく、前例があることのほかに、そもそも一度死刑が執行された者に対して、再度の執行をするということは、①残虐な刑罰を禁じた日本国憲法36条、②二重処罰の禁止・一事不再理を定めた日本国憲法39条の理念などからも、制約的に考えていかなければならないと思います。さらに死刑廃止が世界の趨勢であることも重要な判断要素であると考えます。

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