大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

新たな少数派株主の追い出し制度(キャッシュ・アウト)

14.03.16 | 企業の法制度

"

初の会社法大幅改正法案が、昨年11月に衆議院に提出され、今年の通常国会で成立する見込みです。概要は、既に1月にご紹介していますが、その改正案の中で、新たな少数派株主の追い出し(キャッシュ・アウト)として、「特別支配株主の株式等売渡請求」制度が盛り込まれています。
これによれば、議決権の90パーセント以上を有する大株主(特別支配株主)が、少数株主に対して、「貴殿の株式を○○円で買い取ります」と通知すれば、少数株主が同意をしなくても、強制的にその株式を取得することができるようになります。取締役会の承認が必要ですが、株主総会の承認不要で実行できる大胆なものです。

"

"

■現行の会社法でのキャッシュ・アウト
実は、現在の会社法でも、少数株主をキャッシュ・アウトするために利用可能な制度がありました。「全部取得条項付種類株式」による方法、株式の併合により端株となる株式の買取請求、現金を対価とする組織再編行為などがそれです。

このうち、課税上の問題から、実際に多く用いられてきた方法は「全部取得条項付種類株式」方式です。
ここでは詳細は省きますが、①定款を変更してすべての普通株式を全部取得条項付種類株式とし、②会社が新規に発行する普通株式を対価として全部取得条項付種類株式を取得するが、一般株主には端数株が対価として交付されるように設計しそれを現金化して交付するという方法ですが、株主総会の特別決議が必要という点で時間がかかるものでした。

■新たな少数派株主の追い出し(キャッシュ・アウト)制度
既存制度の「全部取得条項付種類株式」方式は、建て前上は会社の行為として行われるも
のでした。これに対して、新制度として予定されている「特別支配株主の株式等売渡請求」制度は、正面から90%以上の大株主が少数派株主に対して直接かつ強制的に買い取り請求できるというものです。改正会社法の第179条から始まる条文(第四節の二 特別支配株主の株式等売渡請求)がこれに当たります。

■特別支配株主の株式等売渡請求の制度あらまし
①株式等売渡請求の手続
(1)特別支配株主の要件
株式等売渡請求ができるのは「特別支配株主=株式会社の総株主の議決権の10分の9以上を有している株主」です。
特別支配株主となるための手段について限定はされておらず、公開買付、対象会社による第三者割当増資又は自己株式取得によることが考えられます。対象会社には非公開会社も含まれます。
(2)特別支配株主による株式等売渡請求
特別支配株主は、株式の売渡請求を望むに際して、このことを対象会社に通知を行い、同社の承認を受けなければなりません。特別支配株主からの売渡を求める株主へ個別に連絡を取る必要はありません。
(3)対象会社による承認
通知を受けた対象会社の取締役会は、これを承認するかどうかを決定します。 承認決定は、特別支配株主が指定した取得日の20日前までにしなければなりません。それまでに決定されなかった場合は、不承認扱いとなります。
(4)売渡を求める株主への通知又は公告
対象会社の取締役会が、株式等売渡請求の承認決定をした場合、対象会社から売渡株主に対して通知(又は公告)を行います。この通知(又は公告)によって株式売渡請求がされたものとみなされます。特別支配株主は、取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合、株式等売渡請求を撤回できることになっています。
(5)取得日の到来
特別支配株主は、自らが指定した取得日の時点で、売渡株式の全部を取得することとなります。特段の売買契約などの締結は必要がありません。売渡株式の対価の支払期日は取得日と一緒ですが、同時履行ではないので、特別支配株主は、対価が未払いの状態でも、取得日以降は株主権を行使できます。売渡をしたことになる株主は、異議がなければ、その対価の支払いを受けます。

■売渡株主の保護について
この制度は、特別支配株主による一方的な手続きで進むため、事前開示・事後開示手続きのほかに、当然に売渡株主を保護するための手続きが用意されています。
(1)差止請求
売渡を求められた少数株主は、①株式売渡請求が法令に違反する場合、②対象会社が売渡株主に対する通知に関する規定もしくは事前開示に関する規定に違反した場合、③売渡株主への対価が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合において、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対し、全部の取得をやめることを請求することができます。
(2)価格決定の申立て
売渡株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、売渡株式等の売買価格の決定の申立てをすることができます。
(3)売渡株式等取得の無効の訴え
株式等売渡請求による売渡株式等取得の無効について、取得日から6か月以内(非公開会社の場合は1年以内)に、訴えをもってのみ主張することができます。無効判決が出て確定したときは、取得の効力は将来に向かって失われ、判決の効力は第三者に対しても生じます。

■問題点
(1)この制度は、上場会社ならば必要性があるところかと思いますが、親族や知人などが株主となっている中小企業などでは、少数株主というだけで、一方的に株主の地位を奪われてしまうことは、場面によっては理不尽なケースが生じうるように思います。この点は、法制審議会でも議論されていたようですが、対象を上場会社などの一定範囲に限るなどの制限もあっていいような気がしないでもありません。
(2)今回の制度では、「対象会社の承認」による関与を求めることで、少数株主の利益の保護を図るとしています。このことからすると、承認をするにあたっては、特別支配株主の提示する条件が適正かどうかを判断することが必要です。ところが、法案では、取締役会設置会社の場合、取締役会決議によって行うことになっています。しかし、特別支配株主がいる会社では、取締役は特別支配株主の意向を強く受けざるを得ず、中立に判断できるかは大いに疑問です。第三者の関与を義務づけるべきであったのでないかとも思えます。

"

TOPへ