大阪プライム法律事務所

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暴力団員によるゴルフ場利用と詐欺罪

14.05.17 | 企業の法制度

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暴力団員であることを隠して宮崎県のゴルフ場を利用したとして詐欺罪に問われた事件(宮崎事件)の上告審判決で、最高裁第二小法廷は、本年3月28日に、2人を有罪とした一、二審判決を破棄して、逆転無罪を言い渡しました。
この判決は新聞などで報道されましたが、実は同じ日の同じく第二小法廷で、長野県のゴルフ場で身分を隠してプレーをした事件(長野事件)では、詐欺罪の成立を認めて上告棄却決定をしています。

ゴルフ場で身分を隠してプレーをした暴力団員を詐欺罪に問うケースが全国で増えていますが、同じ最高裁小法廷における異なった2つの判断は、詐欺罪適用に関する判断基準を示すもので、暴力団排除に関係する企業の対応においても参考になるかもしれません。

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■宮崎事件の概要(無罪)
これは、平成26年3月28日最高裁第二小法廷判決(平成25年(あ)第3号詐欺被告事件)(判例秘書登載)です。

この事案は、平成23年8月と9月に、暴力団員である被告人が、宮崎市内のゴルフ場2か所を利用した際のことで、いずれの日も、本名や連絡先を偽りなく記入し、利用料金も払っていて、暴力団員の利用は禁じられていたものの、当時は受付票に確認欄がなく、暴力団と無関係との誓約書も求めていなかったことから、最高裁は「暴力団関係者と申告せずに利用した行為が人を欺く行為には当たらない」と判断しました。

■長野事件の概要(有罪)
これは、平成26年3月28日最高裁第二小法廷決定(平成25年(あ)第725号詐欺被告事件)(最高裁ホームページ「裁判例情報」掲載)です。

この事案は、平成22年10月に、暴力団員である被告人が、長野県内のゴルフ倶楽部の会員である友人とともにプレーをした際に、同倶楽部はそのゴルフ場利用約款等により暴力団員の入場及び施設利用を禁止しているにもかかわらず、友人において、同倶楽部従業員に対し、分かりにくく記載した組合せ表を提出し、被告人の署名簿への代署を依頼するなどして、プレーさせたことが、人を欺いて財産上不法の利益を得たとして、詐欺罪が成立するとしました。

■上記2判決の事案の事実関係の違いは何か
まず、それぞれの事案で、最高裁判所が確定した事実関係と判断理由を、もう少し詳しく紹介します。

(1)無罪となった宮崎事件
(B倶楽部について)
①暴力団員である被告人は、同じ組の副会長らとともに、平成23年8月15日、予約したB倶楽部に行き、ビジター利用客として、備付けの「ビジター受付表」に氏名、住所、電話番号等を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出した。
②その際、受付表に暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられていなかった。
③暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人らが自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもなかった。
④被告人らは、ゴルフをした後、それぞれ自己の利用料金等を支払った。
⑤同倶楽部は、会員制のゴルフ場であるが、会員又はその同伴者、紹介者に限定することなく、ビジター利用客のみによる施設利用を認めていた。 

(Cクラブについて)
①被告人は、9月28日、フロント備付けの「ビジター控え」に氏名を偽りなく記入し、これをフロント係の従業員に提出した。
②その際、暴力団関係者であるか否かを確認する欄はなく、その他暴力団関係者でないことを誓約させる措置は講じられていなかった。
③暴力団関係者でないかを従業員が確認したり、被告人が自ら暴力団関係者でない旨虚偽の申出をしたりすることもなかった。
④被告人はゴルフをした後、自己の利用料金等を支払った。
⑤同クラブは、会員制のゴルフ場で、原則として、会員又はその同伴者、紹介者に限り、施設利用を認めていた。 

(判断理由のポイント)
①2つのゴルフ場は、いずれも利用細則又は約款で暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨規定していたし、九州ゴルフ場連盟、宮崎県ゴルフ場防犯協会等に加盟した上、クラブハウス出入口に「暴力団関係者の立入りプレーはお断りします」などと記載された立看板を設置するなどして、暴力団関係者による施設利用を拒絶する意向を示していた。しかし、それ以上に利用客に対して暴力団関係者でないことを確認する措置は講じていなかった。
本件各ゴルフ場と同様に暴力団関係者の施設利用を拒絶する旨の立看板等を設置している周辺のゴルフ場において、暴力団関係者の施設利用を許可、黙認する例が多数あり、被告人らも同様の経験をしていたというのであって、本件当時、警察等の指導を受けて行われていた暴力団排除活動が徹底されていたわけではなかった。
③暴力団関係者であるビジター利用客が、そのことを申告せずに、一般の利用客と同様に、氏名を含む所定事項を偽りなく記入した「ビジター受付表」等を提出して施設利用を申し込む行為自体は、申込者が当該ゴルフ場の施設を通常の方法で利用し、利用後に所定の料金を支払う旨の意思を表すものではあるが、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められない。
④そうすると、本件における被告人らによる各ゴルフ場の各施設利用申込み行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらない。 

(2)有罪となった長野事件
①本件ゴルフ倶楽部では、暴力団及びこれと交友関係のある者の入会を認めておらず、入会の際には「暴力団または暴力団員との交友関係がありますか」という項目を含むアンケートへの回答を求めるとともに、「私は、暴力団等とは一切関係ありません」等の誓約書に署名押印の上、提出させていた。
②ゴルフ場利用約款でも、暴力団員の入場及び施設利用を禁止していた。
③一緒にプレーした共犯者Aは、平成21年6月頃、本件ゴルフ倶楽部の入会審査を申請した際、上記アンケートの項目に対し「ない」と回答した上、上記誓約書に署名押印して提出し、同倶楽部の会員となった。
④被告人は、暴力団員であり、長野県内のゴルフ場では暴力団関係者の施設利用に厳しい姿勢を示しており、施設利用を拒絶される可能性があることを認識していたが、Aから誘われ、その同伴者として訪れた。
⑤そこのゴルフ場利用約款では、利用客は、会員、ビジターを問わず、フロントで署名簿に自署して施設利用を申し込むこととされていたが、Aは、施設利用の申込みに際し、被告人が暴力団員であることが発覚するのを恐れ、その事実を申告しなかった。
⑥Aはフロントで、自分は署名簿に自署しながら、被告人ら同伴者5名については、事前予約の際の「予約承り書」の「組合せ表」欄に、氏又は名を交錯させるなどして乱雑に書き込んだ上、これを従業員に渡して署名簿への代署を依頼するという異例な方法をとって、被告人が署名をしないで済むようにした。
⑦被告人は、結局フロントに立ち寄ることなくクラブハウスを通過し、プレーを開始した。
⑧被告人の施設利用料金等は、翌日、Aがクレジットカードで精算した。 

(判断理由のポイント)
①本件ゴルフ倶楽部では、利用約款で暴力団員の入場及び施設利用を禁止する旨規定し、入会審査に当たり暴力団関係者を同伴、紹介しない旨誓約させるなどの方策を講じていたほか、長野県防犯協議会事務局から提供される他の加盟ゴルフ場による暴力団排除情報をデータベース化した上、予約時又は受付時に利用客の氏名がそのデータベースに登録されていないか確認するなどして暴力団関係者の利用を未然に防いでいた。このため、被告人が暴力団員であることが分かれば、その施設利用に応じることはなかった。
②入会の際に暴力団関係者の同伴、紹介をしない旨誓約していた本件ゴルフ倶楽部の会員であるAが同伴者の施設利用を申し込むこと自体、その同伴者が暴力団関係者でないことを保証する旨の意思を表していた。
③利用客が暴力団関係者かどうかは、施設利用の許否の判断の基礎となる重要な事項であるから、同伴者が暴力団関係者であるのにこれを申告せずに施設利用を申し込む行為は、その同伴者が暴力団関係者でないことを従業員に誤信させようとするものであり、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならない。 

■この2つの事件での判断の違いはどこにあったか
長野事件が有罪となった理由としては、無罪となった宮崎事件と違って、ゴルフ場が反社会的勢力との関係遮断をねらって、会員規約だけではなく、誓約書の提出なども行わせていた点が大きいと思われます。その上に、長野事件では、共犯者が被告人の存在を積極的に隠す行為を行っていて、被告人も長野県内でのゴルフ場が暴力団員等に対する厳格な対応を知っていたことから、自ら共犯者の陰に隠れていた点が、宮崎事件と比べて、被告人による積極的な隠蔽工作があったとされたものです。

宮崎事件の場合は、被告人は一般利用客と同様の手続でプレーを申し込んでいました。また、その申込みに際しても虚偽記載などをしておらず、また、反社会的勢力に該当しないことに関する誓約書等の提出も求められていませんでした。つまりは、ゴルフ場が立看板等によって暴力団関係者排除を宣していただけでは、詐欺罪における欺岡行為がないとしたものです。

この2つの事案を参考に考えれば、反社会的勢力への対応としては、単に「暴力団員等の利用を禁止する」などの看板を掲げたりするだけではだめで、そうでない旨の誓約書を求めるなどの行為が重要であると言えます。

ただし、暴対法の改正を経て、最近は、各種契約において、暴力団員排除条項等が採用され、反社会的勢力排除体制が整備さるなど、社会情勢は大きく変化してきました。これを踏まえると、単に積極的に暴力団員であることを隠したとは言えない場合も、有罪となる可能性は高まっていると言えますが、無限定な拡大にも疑問があります。このことから、企業としては、利用契約などに積極的に暴力団排除条項等を採用し、申し込みを受けるに際しても個別にそれを明示するなどの工夫が求められます。

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