大阪プライム法律事務所

大阪プライム法律事務所

「経営者保証に関するガイドラン」の参考事例集

14.06.14 | 企業の法制度

"

「経営者保証に関するガイドライン」とそれに関するQ&Aが取りまとめられ平成26年2月1日から運用が始まっています。これは、中小企業経営者が、銀行その他の金融機関に対して負っている個人保証に関して、金融機関等が果たすべき役割を具体化したものです。これに関して、6月4日に、金融庁から、このガイドラインの活用に係る参考事例集が公表されました。

ここには、活用に関する具体的な事例が記載されています。これにより、ガイドラインの積極的な活用に向けた取組みが進み、広がっていくことを期待したいところです。ただし、金融機関に対する法的な縛りではないため、現実には保証責任を背負わされた社長さんには厳しい運用も予想されるため、社長側から積極的にチャレンジしていくことで、適用範囲を広げていかなければならないと思います。いずれにせよ、中小企業経営者にとって大きな悩みの解決に大きなヒントがあると思います。

"

"

「経営者保証に関するガイドライン」とは
これは、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を共同事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が、中小企業庁・金融庁等の協力を得て、中小企業経営者による個人保証が抱える課題解決に向けて、中小企業や保証人、金融機関等が果たすべき役割を具体化した「ガイドライン」で、そのQ&Aとともに、平成25年12月5日に公表されています。http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news251205_1.pdf

このガイドラインでは、金融機関が経営者の保証契約を取るときの対応として、
①中小企業が経営者の個人保証を提供することなく資金調達を希望する場合に必要な経営状況と、それを踏まえた金融機関側の対応、
②やむを得ず個人保証契約を締結する際の保証の必要性等の説明や、適切な保証金額の設定に関する金融機関の努力義務、
③事業承継時等における既存の保証契約の適切な見直し等
について規定されています。 

また、保証債務の整理の際の対応として、
①経営者の経営責任のあり方、
②保証人の手元に残す資産の範囲、
③保証債務を一部支払った後に残った保証債務の取扱い
等についての考え方が規定されています。 

本ガイドラインには法的拘束力はありませんが、金融機関の多くは、中小企業・小規模事業者等の経営者による個人保証における課題解決に向け、このガイドラインを遵守する姿勢を表明しています。 

ある金融機関の例
以下は、ある金融機関のホームページに掲載された「経営者の方から個人保証をいただく際の対応について」の記載です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2013年12月5日の経営者保証に関するガイドライン研究会による「経営者保証に関するガイドライン」の公表を踏まえ、当行における経営者等の方から個人保証をいただく際の対応についてご説明します。

1.当行は保証契約を締結する際、お客さま(債務者の方及び連帯保証人の方)に対して、以下の3項目について確認を行い、そのうえで保証金額を含め保証の必要性を総合的に検討させていただきます。
(1)法人と経営者の方との関係の明確な区分・分離が図られているか否か。
(2)財務基盤の強化が図られているか否か。
(3)財務状況の正確な把握及び適時適切な情報開示等による経営の透明性の確保が図られているか否か。
2.保証履行時は以下のとおり対応します。
保証履行時の履行請求は、原則として一律に保証金額の請求を行うものではなく、保証履行時の連帯保証人の方の資産状況等を考慮したうえで、履行の範囲を決定させていただきます。
3. 連帯保証人の方から保証契約の変更・解除の申出がございましたら、以下の項目等を検討させていただいたうえで改めて、保証の必要性及び適切な保証金額について真摯かつ柔軟に対応いたします。
(1)法人と経営者個人の方の資産・経理が明確に分離されているか。
(2)法人と経営者個人の方との資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えないか。
(3)法人のみの資産・収益力で借入金の返済が可能と判断しうるか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「経営者保証に関するガイドラン」の活用に係る参考事例集について
新たに公表された参考事例集は、①経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する事例、②適切な保証金額の設定に関する事例、③既存の保証契約適切な見直しに関する事例(6事例)、④保証債務の整理に関する事例(2事例)の4項目で構成され、合計23事例が紹介されています。今後も事例の収集状況を踏まえ、随時、更新されるとのことです。http://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20140604-2/02.pdf 

①の「経営者保証に依存しない融資の一層促進に関する事例では、経営者保証を求めなかった事例や、経営者保証の機能を代替する融資手法活用した事例など11事例が紹介されています。
②の「適切な保証金額の設定に関する事例」では、経営者保証以外の手段による全状況等を考慮して、保証金額の設定減を行った事例、既存の保証契約適切な見直しをした事例など4事例が紹介されています。
③の「既存の保証契約適切な見直しに関する事例」では、保証契約の期限到来に伴い経営者を解除した事例、経営者の交替に際し前経営者の保証を解除し新経営者から保証を求めなった事例など、6事例が紹介されています。
④の「保証債務の整理に関する事例」では、中小企業再生支援協議会を活用して保証債務を整理した事例、事業再生ADRを活用して保証債務を整理した事例の2事例が紹介されています。 

このうち、2つの具体的事例を紹介します。 

■(事例No21)会社との関係がなくなった前経営者の保証を解除した事例(信用金庫)(文章は適宜に要約)

【主債務者及び保証人の状況、事案の背景等】
(1)会社は、建設業者として高い施工技術を持ち、一定の経営基盤や収益環境を構築している。直近期末は、公共工事の減少により売上は事業計画を下回ったものの、コスト削減により事業計画を上回る経常利益を確保するなど、財務内容の改善に向けた取組みが見られた。
(2)こうした中、健康上の理由により前経営者が直近期末時に退任したが、既存の借入金について前経営者の個人保証は解除されず、新経営者とともに個人保証をしていた。今般、信用金庫から、「経営者保証に関するガイドライン」の説明を行ったところ、前経営者が会社の株式を譲渡するなど、会社と全く関係のない立場となったことから、前経営者による保証の解除について信用金庫に相談があった。

【保証契約の見直しの具体的内容】
(1)前経営者が保有していた会社の株式は全て譲渡され、前経営者は経営にも全く参画しておらず、実質的にも会社と関係のない立場にあることが確認できたため、「経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする」監督指針の趣旨を踏まえ、信用金庫は前経営者との保証契約の見直しを検討した。
(2)その結果、新経営者から保証の提供を受けていることや業況回復への当社の取組状況を勘案し、前経営者の保証を解除することとなった。 

■(事例No23)事業再生ADR を活用して保証債務を整理した事例(地域銀行)
(文章は適宜に要約)

【整理の申し出を行うに至った経緯・状況等】
会社は、宿泊業者であり、過去、多額の資金を投じ設備投資や事業の多角化を行ったものの、企図した投資効果を得られずに過剰債務・債務超過に陥った。
その後、一定のキャッシュフローの創出はできていたが、事業価値を維持するための設備投資資金の調達が困難であることや競争環境が厳しくなったこと等から、自主再建は困難と判断されたため、メインの地元銀行から抜本的改善スキームの必要性を説明し、事業再生ADR を活用した事業再生計画の策定に着手した。

【整理の具体的内容】
(1)スポンサーから出資・貸付により拠出を受けた資金を金融債務の一部弁済に充て、残りは債務免除を受けることで再建を図ることとなった。事業再生計画の概要は以下のとおり。
(2)金融機関の債権(うち大半を経営者が連帯保証)について、スポンサーからの出資・貸付、不動産の売却等、経営者の保証履行で一部を弁済し、残りの債務については免除した。
(3)経営者の個人保証債務については、「経営者保証に関するガイドライン」に即して、以下のような形で保証債務の免除を行うこととした。
〇保証人が保有資産の内容を開示するとともに、その正確性について表明保証を行い、支援専門家である弁護士がその適正性について確認を行った旨の報告書の提出を行った。
〇保証人が、表明保証を行った資力の状況が事実と異なる場合には追加弁済を行う旨を表明した。
〇早期再生に伴う回収見込額の増加額は、スポンサーからの出資・貸付により主たる債務の一部弁済に充てた金額であった。保証人の退職金により、保証債務の一部を履行した。
〇保証人の残存資産については、以下のとおりとした。
・破産手続の自由財産に相当する現預金
・生命保険を解約した場合の返戻金(破産手続においても自由財産として認 められる可能性が高いことを考慮)
・自宅(華美とは認められず、今後の生活の維持を考慮)
・生命保険の解約返戻金のほか、自宅を残存資産として保証人に残したこと により、その後の保証人の生活再建に大きく寄与することとなった。

"

TOPへ