大阪プライム法律事務所

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私戦予備・陰謀罪とは?

14.10.18 | 企業の法制度

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「イスラム国」という言葉がよく耳に入ってきています。スンニ派のイスラム教原理主義組織で、主にイラクとシリアで活動していて、占領済み地域について一方的に独立を宣言し、今年の6月から「イスラム国」と称していますが、国際的には認められていません。国際テロ組織・アルカイダから派生した一セクトのようですが、そのアルカイダでさえも距離を置くほど残虐性が際立っていて、「イスラム教過激派組織」とも言われています。
この「イスラム国」に、北海道大学の男子学生らが戦闘員として加わろうとしたとして、警視庁公安部が関係者を「私戦予備・陰謀罪」の疑いで事情聴取し、捜索したという報道が飛び込んできました。この「私戦予備・陰謀罪」は、確かに刑法には書かれていますが、これまでは使われたこともない罪で、司法試験でも馴染のないものであって、私も正直、この罪名の出現には驚きました。少し覗いてみます。

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まずは刑法の条文から
(私戦予備及び陰謀)
刑法93条  外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。 

内閣法制局の解説
同法制局が編集した「有斐閣 法律用語辞典」によると、同罪は、「外国に対し私的に戦闘をする目的でその予備又は陰謀をすることによって成立する罪(刑法93条)。現行刑法上は、私戦そのものを処罰する規定は置かれていない。」と書かれています。条文をそのままなぞったような解説なので、これだけではよく分かりません。 

そもそも、「私的に戦闘行為をする」とは、どういうものを指すのでしょうか。これを調べるために判例検索をかけてみましたが、この罪に関する裁判例は一切見当たりませんでした。 

大塚仁著「刑法概説(各論)」
あとは、刑法の教科書に頼るしかありませんので、私が勉強した際に用いた大塚仁著「刑法概説(各論)」(有斐閣)によると、以下のような解説がなされていました(536頁)。

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外国に対して戦闘行為を行うことは、憲法9条に違反するばかりでなく、当該国とわが国との国交を破壊することとなる。本罪は、そのような私戦の予備.陰謀を処罰するのである。法定刑として禁鋼が規定されているのは、確信犯的行為を考慮したものであろう。 

予備・陰謀のみが処罰され、私戦の未遂・既遂を罰する規定はない。これは、現実の問題として、おそらく、私人が外国と戦争を行うことなどはありえないと考えられたことによるのであろう(しかし、草案130条は、私戦罪およびその未遂罪を規定している)。万一、私戦が開始された場合には、その行為は、騒擾罪、殺人罪、放火罪、強盗罪その他の規定を適用して処罰するのほかない。その際、本罪は、騒擾罪などに吸収されるか、騒擾罪などと併合罪となるか、また、牽連犯となるかについて、見解が分かれているが・・牽連犯となると解すべきである。 

本罪も、目的犯である。外国に対して、私に戦闘をする目的を必要とする。「外国」とは、国家としての外国をいい、外国の一地方、または特定の外国人の意味ではない。 

「私に戦闘をする」とは、国の命令によらずに勝手に戦闘行為を行うことである。「戦闘」とは、武力による組織的な攻撃・防御を意味する。 

「予備」とは、実行の着手以前の段階における犯罪の準備行為をいう。方法のいかんを問わない。兵器、弾薬の用意、兵糧の調達、人員の招集など、いずれも、予備にあたる。 

「陰謀」とは、私戦の実行を目ざして、二人以上の者が、たがいに犯罪意思を交換して謀議を行うことである。 

自首した者には、刑を免除する。42条1項に対する特別規定である。私戦は重大な行為であるから、自首に特別の恩典を与えることによって、実行を未然に防止しようとする趣旨であることは、いうまでもない。

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今回の件について
報道などでは分からない点が多くありますが、今回の北大生は「イスラム国」へ行って兵士になろうとしていただけで、自ら戦闘行為の準備行為をしていたわけでもなさそうです。今年の夏ごろに杉並区に引っ越してきて男性4人で共同生活をしていたが、古書店に貼られていた求人広告を見て、店員を通じて募集主と連絡を取り、シリア行きを計画したとみられています。その求人広告には「勤務地:シリア 詳細:店番まで」とだけ書かれていて、具体的な内容は分かっていません。そしてその北大生は、当初8月中にシリアへ向かおうとしていたものの、何らかの事情で中止となり、改めて渡航を計画していたところ、警視庁から事情聴取を受けることになったようです。その取り調べで「シリアでイスラム国に参加し戦闘員として働くつもりだった」と話しているということが報じられています。 

捜査機関は、これらの行為に対して、イスラム国はシリアやイラク政府に対して戦闘行為をしているので、イスラム国に行って兵士に加わることは「シリアやイラクという国家に対する戦闘」を「私的に」行うことになるとして、その着手以前の段階における準備行為を「予備」、その行為を目ざして2人以上の者が意思を交換しあったことをもって「陰謀」と位置付けたものと思います。 

そう考えると、今回の解釈適用は、少し強引な気がしないでもありません。おそらく、何とかこの青年の行動をやめさせるて日本人がテロ組織に参加するのを未然に防止するためには、「殺人予備罪」や「凶器準備集合罪」に当てはめようとしても無理なので、これまで使ったことのない私戦予備・陰謀罪を持ち出してき感じがしてきます。

しかし、遠いところと思えるイスラム国に日本の若者が持つ魅力とは何なのでしょうか。

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