大阪プライム法律事務所

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シャルレ代表訴訟(MBO頓挫での株主損害賠償)

14.12.16 | 企業の法制度

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元バレーボール全日本代表選手であった三屋裕子氏が一時期社長を務めるも、創業家側との対立から2006年に解任されるなどで注目を集めたことのある婦人下着販売大手の株式会社シャルレで、その後、創業家によるMBO(経営者が参加する買収)が計画されましたが、頓挫しました。そのことを巡って、無駄な費用を生じさせ会社に損害を与えたなどとして、株主の男性が元取締役5人に総額5億円の賠償を求めた株主代表訴訟が進んでいましたが、その判決が本年10月16日に神戸地裁で出ました。

伊良原恵吾裁判長は、創業家の元社長ら2人に約1億9700万円の支払いを命じましたが、当時の社外取締役についても賠償は命じなかったものの、法律上の義務違反を認める判断を示しました。この判決は、取締役責任の問題に関して、興味深い内容となっています。

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■MBOの経緯
三屋裕子氏の社長解任後の2008年9月、シャルレは、マネジメント・バイアウト(MBO)実施を発表しました。

■MBOとは

MBO(マネジメント・バイアウト、Management Buyout、経営陣買収)とは、会社経営陣が株主から自社株式を譲り受けたり、事業部門統括者が当該事業部門を事業譲渡されたりする行為を言います。

シャルレでのMBO計画は、シャルレの大株主である創業家の資産管理会社2社を、モルガン・スタンレー系の投資ファンドが買取り、この2社が株式公開買付け(TOB、会社の株式等の買付けを、買付け期間・買取り株数・価格を公告して、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のこと)を実施し、買付け終了後に創業家が出資をして、モルガン・スタンレーが51%、創業家が49%の株式を保有するというものでした。

取締役会は、その計画を公表するに際して、これに賛同する旨を表明していました。しかし、その後に、社内からの内部通報で、この取締役会決議において、決議に参加できない利害関係人である代表取締役社長(創業者夫妻の長男)が関与して、買取り価格を低く誘導していた疑いが明らかになりました。

そこで同社は、事実調査のために、外部の有識者からなる第三者委員会を設置し、その第三者委員会は「利益相反行為があったとの疑念を払拭できない」旨の調査報告を行いました。その後、大阪証券取引所から改善報告書の提出を請求され、その改善報告書を提出したものの、なお不十分として再提出を求められました。それと同時に、取締役会が、公開買付けに対して「賛同を撤回する」ことを表明し、あわせて、代表執行役社長を解任しました。三屋裕子社長の解任からわずか1年半後のことでした。

この混乱から、モルガン・スタンレー系の投資ファンドが動いて動きを中止させたことから、TOBは不成立となり、MBOは失敗しました。

この判決については、原告・被告の双方が控訴を申し立てたため、大阪高裁に移って継続することになりました。

■この事件のポイント
一般的に、MBOを行う経営陣は、できるだけ株を安く買いたい買収者としての立場があります。また、その一方で、高く売りたい一般株主への配慮が必要な取締役としての立場もあります。この2つは、利益相反状態と言えます。

このため、通常、MBOを行う経営陣は、利害関係を持つ取締役を外し、社外取締役らが中心となって手続きを進めることになります。

その際の手続きで特に大切なのは、「一般株主から株を買い取る際の価格」をいくらで設定するかです。

MBOを行う経営陣は、公正な価格で買い取りを提案するのですが、情報量が圧倒的に少ない一般株主としては、「公正な価格の水準」が分かりません。そのため、公正さを担保するために、シャルレも第三者に公正な価格の算定を依頼しました。

ところが、第三者によって算出された価格が、1株1104~1300円と想像以上に高額でした。このため、中立的であるべき買収者の立場であった当時のシャルレ社長は、もっと価格が安くなるよう算定根拠となる利益計画を作り直すことを担当者にメールで何度も指示したのです。その結局、MBOを公表したときの買い取り価格は1株800円に下がっていました。その後に、この介入事実が内部通報で明らかになったのでした。

裁判での争点は、まさに一連の流れの中で、取締役としての義務違反があったかどうかでした。

■当時の社長の責任
神戸地裁はMBOを行う取締役の義務として、①「手続きの公正性配慮義務」、②「企業価値向上につながらないMBOを避ける義務」、③「情報開示義務」の3つの義務の存在を認定しました。

そして、社長による一連の指示メールは「致命的に不当な内容」で、「公正性配慮義務」に違反したとしました。「公開買付価格それ自体の公正さ」に加え、善管注意義務の一内容として、「利益相反的な地位を利用して情報量を操作し、不当な利益を享受しているのではないかとの強い疑念を株主に抱かせぬよう、その価格決定手続の公正さの確保に配慮すべき義務」を認めました。これは、公開買付価格の公正さとは別に、「価格決定手続の公正さ」に配慮する義務を認めたものといえ、今後のMBO手続きに大きな影響を持つ内容です。

 ■社外取締役の責任
判決は、さらに、こうした介入を防げなかった3人の社外取締役の責任にも触れています。
裁判所は、それについて、情報開示義務違反を指摘しました。
会社側は算定作業後、大阪の大手の法律事務所に、今回のMBO手続きに問題がない意見を求めたところ、同事務所は「取締役の義務違反になる恐れあり」という意見書を書くと通告していました。ところが、社外取締役はその意見書の受け取りを拒否し、しかも経営陣による株の買い付けに会社として賛同することを表明する際に、「株主に公正かつ妥当な価格で株の売却機会を提供できると判断した」と社外取締役が中心となって書いていたということです。その行為自体が、「開示義務違反に当たる」と判断されたわけでした。ただし、損害との間の相当因果関係は認められないとして、損害賠償義務については否定されています。安い株価を求める経営側の立場と高い株価で株主利益を尊重すべきか利益相反の立場にたって、たとえ複数の社外取締役がいても機能しなかった事例といえます。

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