大阪プライム法律事務所

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ネット検索結果の削除「忘れられる権利」

14.11.15 | 企業の法制度

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本年10月9日、東京地裁は、「グーグル」の検索結果を示したページの見出しや要旨(スニペット)の記述にプライバシー侵害があるとして、男性がグーグル側に削除を求めた仮処分申し立てに対して、申し立てした237件の約半数の122件について削除を命じました。

この決定では、「検索結果のタイトルやスニペット自体が男性の人格権を侵害していることは明らか」と指摘して、検索サイトを管理するグーグル側に削除義務が発生するのは当然であるとしました。
グーグル社は、この決定を受けて、10月22日に、裁判所の決定を尊重するとして、削除対象になった122件の表示を完全に削除する方針を明らかにしました。ネットを巡っては、プライバシー侵害や名誉毀損の問題などが多く発生していますが、この決定は、それに悩む者にとっては朗報であると思います。今後、どのような影響が出るでしょうか。

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 10月9日東京地裁決定の事案
男性は「自分の名前を検索すると10年以上前の情報が数百件表示され、生活を脅かされた」とし、人格権が侵害されているとして、6月に237件の削除を求めて仮処分を申し立てました。関述之裁判官は、決定理由の中で「検索サイトはネットを効率的に利用する上で重要な役割を果たしている」とする一方で、検索結果から男性は素行が不適切な人物との印象を与え、実害も受けたとして122件の削除を命じたものです。 

EU司法裁判所の「忘れられる権利」判決との関連
本年5月13日に、インターネット検索大手グーグルに対し、スペイン人男性が、自分の過去の債務記録へのリンクを削除するよう求めていた件で、欧州連合(EU)司法裁判所が、いわゆる「忘れられる権利」を認めて、不適切な検索結果を削除するよう命じました。今回の東京地裁決定は、このEU判決に近い内容になっています。

EUは、2012年に個人情報保護に関する従来の方針に代わる「一般データ保護規則案」を提案し、その中で「忘れられる権利」を明文化し、個人データ管理者はデータ元の個人の請求があった場合に当該データの削除が義務づけられることとしました。その前年に、フランスの女性がグーグルに対し「過去の写真の消去」を請求して裁判所が削除を命じたことから、忘れられる権利が注目を浴びるようになったのです。

東京地裁での類似事件について(サジェスト機能に対する判決)
東京地裁では、平成25年4月と5月に、「サジェスト機能(検索用の枠に単語を入力した際に、関連性の高い別の単語が表示されるグーグルの予測検索機能)」によって名誉が毀損されたとして損害賠償請求を求めた事件の判決がありました。 

サジェスト機能とは、たとえば検索サイトの入力枠に文字を入れていくと、その文字に続く候補が自動的に表示されますが、そういった機能をいいます。サジェスト(suggest)は「示唆する」といった意味を持つことからこのように名づけられています。表示された候補から単語を選べば、最後まで入力する必要がない点で便利です。

同様の機能に、「オートコンプリート」というものがありますが、これは過去に入力した文字やデータを再入力する手間を減らすのが目的で、サジェスト機能は、一度も入力したことのない単語も候補として表示される点が違います。

昨年4月の判決事案は、自分の名前を入力すると「サジェスト機能」で犯罪への関与をうかがわせる表記が出る男性について、「違法な投稿記事のコピーについて、容易に閲覧しやすい状況を作り出している」として名誉毀損を認めました。しかし、その後の控訴審たる東京高裁判決では、これを認めず、原審判断を取り消しました。

同5月に同様の内容が争われた同地裁での別の裁判では、逆に名誉毀損を認めず請求を棄却しています。

今後の影響
昨年の東京地裁での事案は「サジェスト機能」が対象でしたが、本年10月の東京地裁決定は、「検索結果の見出しと要旨」に対してのものでした。昨年の2つの裁判と今回の判決とは、そういった意味で削除対象が違います。共通する点としては、いずれも名誉毀損やプライバシー侵害が認められれば、検索サイト運営側に削除義務が生じるとした判断部分であって、それ自体、社会的なインパクトは大きいものと思います。

これまでハードルが高く困難と思われた「検索結果の削除」を求める人が、今後は増えていく可能性があると思います。

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