大阪プライム法律事務所

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大塚家具の委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)

15.03.20 | 企業の法制度

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大塚家具が大騒ぎです。創業者の大塚勝久会長が、娘の大塚久美子社長を追い出しにかかっています。3月27日に開催される株主総会で、自分を含む新たな取締役の選任を求める株主提案をしていますが、その中に久美子社長は含まれていません。つまり、実質的には久美子社長の取締役解任動議と言えます。

対する久美子社長側は、2月13日開催の取締役会で、会社として勝久会長側の株主提案に反対する決議を可決しました。逆に株主総会での会社提案では、勝久会長を含まない取締役選任案を提出することを決定しました。

ワイドショーでは、これをお家騒動として大きく報道して、大きな関心を引いています。そのような中、株主総会に向けた委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)が激烈に展開されています。双方が大株主に向けて経営方針を説明して支持を要請するととともに、一般投資家を狙った情報合戦が繰り広げられています。委任状争奪戦(プロキシー・ファイト)とはどのようなものでしょうか。

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プロキシーファイト(Proxy Fight)とは
「プロキシ」は英語で、代理や代理権、委任状を意味します。プロキシーファイトは「委任状争奪戦」と訳され、株主総会において自らが提出した株主提案を可決させたい株主と、その提案に反対する会社経営陣または別の株主とが、互いに他の株主から議決権行使委任状を争奪しあう多数派工作のことを言います。 

大塚家具の株主のもとには、会社からの株主総会招集通知(議決権行使書と委任状が同封)が届く一方で、大塚勝久会長側からも委任状が届いています。第1号議案から第4号議案までが会社側提案で、社長側取締役10名選任は第2号議案となっています。そして会長側の株主提案は第5号議案となっています。株主は自ら株主総会に出て議決権を行使するか、欠席して議決権行使書でもってそれぞれの賛否を投票するか、またはどちらかの側に委任状を提出するかになります。 

■プロキシーファイト事例
過去に話題になったケースはいくつかあります。2002年に開かれた東京スタイルの株主総会では、村上ファンドが配当金の大幅増額、自己株式の取得、社外取締役選任を求めてプロキシーファイトとなりましたが、会社側提案が可決されました。2007年にはTBSの株主総会で、楽天グループが、三木谷楽天社長らの社外取締役選任等を求めた株主提案を提出し、TBS側とプロキシーファイトとなり、会社側提案が多数で可決されました。同じ年の米系の投資ファンド(スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド)が、サッポロホールディングスの株主総会で、会社側による買収防衛策導入案に反対してプロキシーファイトを展開しましたが、このときも株主の多数は会社側につき導入提案が可決されました。 

■いくつかの問題点
委任状争奪となると、いくつかややこしい問題が生じます。

(1)議決権行使書面による議決権行使において、両立しない議案のいずれにも賛成の表示がある場合はどうなるか。
このような場合は、本来はいずれの議案との関係でも無効となります。このため、このような無効票が出ないように、実務では議決権行使書面や参考書類において注記しています。但し、複数の株主提案がなされている場合で優劣がつけられているケースにおいては、いずれにも賛成することは矛盾しないので、株主提案の議案に関してはいずれの議案の関係でも有効になります。

(2)賛否の記載が無い場合はどうなるか。
これを避けるために、株主総会を招集する取締役会において、「賛否の記載がない場合は会社提案につき賛成、株主提案につき反対の意思表示があったものとして取扱う」と決定し、その内容を議決権行使書面に記載することができます( 会社法第298 条①5号、規則第63 条3号ニ、規則第66 条①2号)。 

今回の大塚家具の株主総会招集通知にも、「4.招集にあたっての決定事項」の中で、「賛否の表示のない議決権行使書用紙の取扱いについて」として、「各議案について賛否の表示がない議決権行使書用紙が提出された場合は、会社提案議案については「賛成」、株主提案議案については「反対」の意思表示があったものとして取り扱わせていただきます。」としています。 

ただ、その場合に、株主提案に賛成の記載があり、かつ、会社提案に賛否の記載がない場合、いずれにも賛成の意思表示があったと扱われることになり、いずれの議案の関係においても無効となります。このようなことが起きないように、議決権行使書面および参考書類に注記されています。 

(3)委任状の場合、会社側と株主側の双方の委任状が提出された場合、どちらが有効とされるのでしょうか。
これについては日付の新しいほうを有効とすると解されています。ただし、同一日付の場合や日付の記載がない場合は最終意思が確認できないため、無効と解されています。

(4)議決権行使書面を提出している株主が、さらに委任状を提出した場合、議決権行使書面は無効となるのでしょうか。
議決権行使書面は株主総会に出席しない場合に初めて効力を生じるため(会社法第298 ①3号)、委任状をもつ代理人が総会に出席すれば無効になると解されています。

しかし、これらの事項は、代理人による議決権の行使に関する事項ですので、予め取締役会で決議して招集通知に記載しておけば、それに従うことになります(規則第63 条5号)。そこで、「議決権行使書面を持参しない代理人は有効な代理人として扱わない」と定めておくと、(3)と(4)の処理関係は明瞭になります。

■コーポレートガバナンス・コードの影響
3月5日に金融庁が「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下、「コーポレートガバナンス・コード」といいます。)を公表しましたが、今回の件では、大塚家具は、コーポレートガバナンス・コードを引用しながら会社提案に賛成するように求めているのが目を引きます。 

会社側(社長側)は、3月12日に、「コーポレートガバナンス・コードに対する当社の考え方と第44回定時株主総会における議決権行使のお願い」とする書面を公表しました。

そこには、「社外役員を含む多くの役員からの要望を顧みることなく、経営執行のトップが独断専行を行うという上場会社としてのガバナンスが機能不全に陥ろうとする状況の中で、2015 年1月の当社取締役会において、社外取締役全員を含む過半数の取締役の決議により、大塚久美子の社長復帰が決定されております。コーポレートガバナンス・コードにおいては、上場会社の独立社外取締役会の責務として「経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと」(原則4-7(ii))を掲げています。当社においては、まさに社外取締役が、社長人事を通じて、このような経営の監督を行ってきており、当社現任の社外取締役は、コーポレートガバナンス・コードが求める資質を備えたものであると評価しております。当社においては、このように社外取締役がガバナンス機能の回復において重要な役割を果たしてきたことを踏まえ、今回の株主総会において、現任社外取締役全員を再任すると共に、実務の経験に満ちた新任の4名を加えた計6名(これは取締役定員の過半数となります。)の社外取締役選任議案を会社提案として上程しております。」としています。

そして、「勝久氏による株主提案においては社外取締役5名が候補者とされておりますが、勝久氏は上記のようにガバナンス機能回復に重要な役割を果たした現任社外取締役を候補から除外しております。現に、これまでの当社経営の中で独立した経営監督を行うことで資質を示している現任社外取締役を全員候補から外していることは、提案株主の提案についてはコーポレートガバナンス・コードの趣旨に照らし、重大な矛盾を抱えていると考えております」として、批判を展開しています。

さて、どちらが勝つのでしょうか。

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