大阪プライム法律事務所

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コーポレートガバナンス・コードの基礎知識

15.04.13 | 企業の法制度

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本年3月5日、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする有識者会議が「コーポレートガバナンス・コード原案」をまとめて公表しました。今後、株主総会が集中する月となる本年6月1日までに確定された上で、この指針を上場規則に反映させる方針のようです。 

法的な強制力はありませんが、「Comply or Explain」(同意せよ、さもなくば説明せよ)の原則に基づいて、上場企業はこのコードに同意するか、もしくは同意しない場合はその理由を説明するよう求められるようになります。ソフト・ロー(法的拘束力のない規範)なので、どこまで効力を発揮するかは未知数ですが、日本企業の経営体制を大きく変える予感もあります。全体の構成やいくつかの耳慣れない用語などについて知っておくのがよいと思い、ご紹介します。

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今回公表されたのは、正式には「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」と言います。

ここでは、「コーポレートガバナンス」を、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」を意味するとし、コード(原案)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものとしています。

■なぜこのような規範が作られるのか
平成25年6月に「日本再興戦略」が閣議決定されました。そこにおいて、「機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップ・コード)について検討し、取りまとめる」との施策が盛り込まれました。これを受けて、金融庁に「日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」が設置され、平成26年2
月に「『責任ある機関投資家』の諸原則」《日本版スチュワードシップ・コード》が公表され、実施に移されています。並行して、法務省法制審議会が平成24年9月に採択した「会社法制の見直しに関する要綱」にもとづき、社外取締役を選任しない場合における説明義務に関する規定などを盛り込んだ会社法改正案が平成26年6月に可決・成立しました。 

こうした中、平成26年6月に閣議決定された「日本再興戦略 改訂2014」で、「東京証券取引所と金融庁を共同事務局とする有識者会議で基本的な考え方を取りまとめ、東京証券取引所が、来年の株主総会のシーズンに間に合うよう新たに「コーポレートガバナンス・コード」を策定することを支援する」との趣旨の施策が盛り込まれました。これを受けて設置された有識者会議が「コーポレートガバナンス・コード(原案)」を策定し、その後、和英両文によるパブリック・コメントを実施し、そこで寄せられた意見をコード原案に反映させたのが、冒頭のコーポレートガバナンス・コード原案です。 

コーポレートガバナンス・コードは、現在、英国をはじめ、ドイツ、フランスなど、主要国のほとんどで策定がなされていて、米国でも上場規程がコーポレートガバナンス・コードと同様の役割を果たすようになっています。そのような中、日本では出遅れた感があり、今回のコード策定はようやく世界水準になったとも言う人もいます。 

■「ソフトロー」
コーポレートガバナンス・コードとは、いわゆる厳格な法規範ではなく、いわゆる「ソフトロー」と言われる規範で、法律などの「ハードロー」と対比されて使われています。国家権力による強制力を持つものではないが、これに違反すると、社会的、経済的、道義的な不利益を被らせる規範として位置づけられています。 

■本コード原案の目的~「攻めのガバナンス」
本コード(原案)は、閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」に基づき、日本の成長戦略の一環として策定されたものです。 

本コード原案の「目的」の箇所では、「会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営されることが重要」とし、「本コード(原案)は、こうした責務に関する説明責任を果たすことを含め会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指すものである」と述べています。 

その上で、本コード(原案)は、「会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている」としています。 

そして、本コード(原案)では、一定の規律を求めているが、これらを会社の事業活動に対する制約と捉えるべきではなく、経営陣をリスク回避的な方向に偏るおそれが生じて、会社としての果断な意思決定や事業活動に対する阻害要因となるという制約から解放し、健全な企業家精神を発揮しつつ経営手腕を振るえるような環境を整えることを狙いとしていると明確に示しています。 

■スチュワードシップ・コードとは「車の両輪」
本コード(原案)では、会社が、各原則の趣旨・精神を踏まえ、自らのガバナンス上の課題の有無を検討し、自律的に対応することを求めるものであるが、このような会社の取組みは、スチュワードシップ・コー一ドに基づくこうした株主と会社との間の建設的な「目的を持った対話」によって、更なる充実を図ることが可能であるとし、その意味で、本コード(原案)とスチュワードシップ・コードとは、いわば「車の両輪」であり、両者が適切に相まって実効的なコーポレートガバナンスが実現されるとしています。 

■「プリンシプルベース・アプローチ」(Principle-based Approach)
本コード(原案)では、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現することができるよう、「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用しています。 

そして、この主義は、抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)について、関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断することにあるとしています。 

■「コンプライ・オア・エクスプレイン」(Comply or Explain)
これは、原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明することを求めるものです。本コード(原案)は、その実施に当たって、この手法を採用しています。つまり、本コード(原案)の各原則(基本原則・原則・補充原則)の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することで一部の原則を実施しないことも想定しています。

この手法は、馴染みの薄い面がありますが、会社側のみならず、株主等のステークホルダーの側においても、この手法の趣旨を理解し、会社の個別の状況を十分に尊重することが求められるとしています。特に、本コード(原案)の各原則を表面的に捉え、その一部を実施していないことだけで、実効的なコーポレートガバナンスが実現されていないと機械的にマイナス評価することは適切ではないと注意を喚起しています。会社としても、「実施しない理由」の説明に際しては、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫すべきであるとしていて、表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に反するものとしています。

■本コード原案の構成
こうした前提の下で、本コード(原案)には、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則が取りまとめられています。具体的には5つの「基本原則」、その内容を詳細に規定した30の「原則」、さらに原則の意味を明確にするための38の「補充原則」の3段階で構成されています。

■5つの基本原則
このうち、5つの基本原則とは、以下の通りです。

①株主の権利・平等性の確保
②株主以外のステークホルダーとの適切な協働
③適切な情報開示と透明性の確保
④取締役会などの責務
⑤株主との対話 

これを受けての原則では、かなり踏み込んだ詳細な内容となっています。独立取締役を2名以上置くことを求めるほかにも、買収防衛策や政策保有株式についての説明、女性の活躍促進、内部通報制度の整備、コーポレートガバナンス・コードの諸原則に対する考え方の開示、取締役・監査役候補指名手続きの開示などが入っています。

詳しくは、ここをクリックしてご覧ください。

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