大阪プライム法律事務所

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マイナンバー対応は遅れ気味

15.05.17 | 企業の法制度

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毎日新聞の本年5月9日記事によれば、来年1月にスタートするマイナンバー制度に関し、情報セキュリティー会社が企業や官公庁の担当者計1212人にアンケート調査を実施したところ、マイナンバーに対応させる作業を完了していないとの回答が9割を超えたとしています。「まだ何も行っていない」としたのは企業の31%を占めたそうです。

このような状況ですが、今年の10月には国内に住民票がある全ての人にマイナンバーが通知されてきます。内閣官房社会保障改革担当室は、マイナンバーに対応した人事・給与システムの導入、安全管理の検討などを、来年1月からの制度開始までに行うよう民間事業者に求めています。営利非営利を問わずにすべての事業者に関係していますが、企業・団体の担当者のみなさま方、大丈夫でしょうか。

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前述の毎日新聞の記事によると、情報セキュリティー大手のトレンドマイクロ(東京都)が今年3月、中小から大手までのさまざまな業種にわたる企業の情報セキュリティー担当者980人と、官公庁(中央官庁と地方自治体)の担当者232人にインターネットを通じて行ったアンケートで、制度開始に向けた準備状況を尋ねたところ、「対応が完了している」と答えたのは企業で4%、官公庁で3%にとどまり、9割超が対応を完了させておらず、「まだ何も行っていない」としたのは企業の31%、官公庁の24%を占めたといいます。

■マイナンバー(個人番号)とは
国内に住民票を持つ全ての者に割り当てられる12桁の番号のことを言います。国や自治体など各機関に分散する個人情報をつなぐ制度で、本年10月から市区町村を通じて住民票の住所にマイナンバー(個人番号)の通知カードが送られてきます。来年1月から、社会保障、納税、災害対策での利用が始まり行政手続で必要になります。

企業・団体としては、従業員からマイナンバーを提示してもらった上で、各種法定調書や被保険者資格取得届等に個人番号を記載して行政機関などに提出する必要があります。

本年10月に送られてくるのは、紙製の個人番号「通知カード」です。これで個人番号は知ることができます。本人はさらに、これに写真を添えて市区町村の役場に申請すれば、無料で顔写真入りのICカード(個人番号カード)と交換できるようになっています。個人番号カードの表面には、氏名、住所、生年月日、性別と顔写真が掲載され、裏面にマイナンバーが書かれています。

マイナンバー(個人番号)は、年金や雇用保険の資格取得、医療保険の給付請求、税務署へ提出する確定申告書・届出書・調書、被災者台帳や再建支援金の支給などに必要です。役所に出す書類に記入するだけでなく、勤務先にも知らせておかなければなりません。税金や年金・雇用・健康保険料などを天引きする際に、勤務先の企業・団体は、各種法定調書や被保険者資格取得届等に個人番号を記載して行政機関などに提出する必要があるためです。年末調整時には勤務先に対し、自分の個人番号だけでなく、扶養控除の対象になる家族全員の個人番号を届ける必要があります。

■法人番号について
法人にも、13桁の法人番号が割り当てられます。個人番号と同じく、10月から、登記上の所在地に通知書が届けられます。法人番号は、従業員の各種法定調書や被保険者資格取得届等を行政機関に提出する際などに記入することになっています。法人番号については、個人番号とは違って、誰でも自由に利用ができ、インターネット上でも公開されることになっています。

■一般の民間の企業・団体がしなければならない給与事務や報酬支払事務での対応
主に実施すべきこととして、納税分野での給与事務、法定調書作成事務での個人番号利用準備が必要となります。従業員やその被扶養者のマイナンバー(個人番号)の収集を行い、人事給与システムにおける個人番号欄の追加といったような準備が必要です。個人番号通知が10月で、利用開始が翌年1月からであるため、従業員数の多いところでは、個人番号の収集作業を効率よく進める段取りをしておくことが重要となります。その際に、個人には住民票の住所にマイナンバーが通知されますので、住民票の場所と別の場所に住んでいる従業員には、そのことを注意喚起しておく必要があります。

なお、従業員に個人番号が通知されて以降は、いつでもその取得は可能ですが、個人番号を記載した法定調書などを行政機関などに提出する時までに取得すればよく、必ずしも1月の利用開始に合わせて取得する必要まではありません。例えば、給与所得の源泉徴収票であれば、平成28年1月の給与支払いから適用され、中途退職者を除き、平成29年1月末までに提出する源泉徴収票から個人番号を記載する必要があります。

また、同じく講師や委託先などへの「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」等の各種法定調書においても個人番号の記載が必要となります。このため、講師等に報酬等を支払う際には、講師などの個人番号を確認して、帳票への個人番号記入などを行うための準備が必要になります。

■基本方針や取扱規定等の策定
個人番号に関しては、個人情報保護法の対象外である小規模事業者であっても、個人番号に関してはすべての事業者が適切な管理や保護措置をとる必要がありますので注意が必要です。 

このため、従業員やその家族、また外部講師などの個人番号を取得し管理することになる場合は、基本方針や取扱規程などの策定が必要になります。個人番号は非常に重要な個人情報なため、個人番号を不当に他人へ提供したり不正入手することは処罰の対処となります。企業・団体等は、収集した個人番号を適切に管理するための社内規程などの事前準備が大切となります。

具体的には、個人番号の取り扱いに関する社内規程づくり、個人番号に対応したシステムの確認(セキュリティー等)、人事や経理部門など、個人番号を扱う従業員への社内研修の実施などです。

個人番号は、法令で定められた手続き以外では使用できません。法人が従業員や顧客情報の管理のために個人番号を使用することは決してできません。この点はくれぐれも注意が必要です。

■目的の特定
個人番号を取得する際には、「健康保険加入事務」「源泉徴収票作成事務」などの利用目的を特定して明示する必要があります。これは、個人情報保護法第18条に基づくものです。複数の目的での利用については、まとめて明示してもかまいません。

 ■個人番号の提供を拒まれた場合
内閣官房が出しているQ&Aでは、この場合について、「社会保障や税の決められた書類にマイナンバーを記載することは、法令で定められた義務であることを周知し、提供を求めてください。それでも提供を受けられないときは、書類の提出先の機関の指示に従ってください。」としています。

■本人確認
個人番号を取得する際は、さらに、他人へのなりすましを防止するために厳格な本人確認を行うことが求められています。それには、正しい個人番号であるかどうかの「番号確認」と、正しい持ち主であるかの「身元確認」を行わなければなりません。これは、従業員から収集する際にも同じです。 

従業員以外からも、外部講師への謝礼金や、デザイナーやライターなどへの委託料、原稿料といったものも、それぞれの人から個人番号を教えてもらう必要があり、この場合も「番号確認」「本人確認」が必要になります。また、収集した個人番号情報の安全管理も確実に行わなければなりません。

内閣官房が出しているQ&Aでは、以下のように解説されています。

「マイナンバーを取得する際は、正しい番号であることの確認(番号確認)と現に手続きを行っている者が番号の正しい持ち主であることの確認(身元確認)が必要であり、原則として、
① 個人番号カード(番号確認と身元確認)
② 通知カード(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
③ 個人番号の記載された住民票の写しなど(番号確認)と運転免許証など(身元確認)
のいずれかの方法で確認する必要があります。
ただし、これらの方法が困難な場合は、過去に本人確認を行って作成したファイルで番号確認を行うことなども認められます。また、雇用関係にあることなどから本人に相違ないことが明らかに判断できると個人番号利用事務実施者が認めるときは身元確認を不要とすることも認められます。」

「また、対面だけでなく、郵送、オンライン、電話によりマイナンバーを取得する場合にも、同様に番号確認と身元確認が必要となります。」

■代理人から本人の個人番号の提供を受ける場合の本人確認
従業員ならともかく、外部の講師や外部役員への報酬などの事務においては、なかなか報酬支払先の人物から直接に本人確認をして取得することが困難な場合が考えられます。そのような場合は、秘書など代理人を通じて取得することになります。

これについての内閣官房Q&Aは以下のように記載しています。

「代理人からマイナンバーの提供を受ける場合は、①代理権、②代理人の身元、③本人の番号の3つを確認する必要があります。原則として、
① 代理権の確認は、法定代理人の場合は戸籍謄本など、任意代理人の場合は委任状
② 代理人の身元の確認は、代理人の個人番号カード、運転免許証など
③ 本人の番号確認は、本人の個人番号カード、通知カード、マイナンバーの記載された住民票の写しなど
で確認を行いますが、これらの方法が困難な場合は、他の方法も認められます。」

 ■これらの方法が困難な場合の「他の方法」とは
他の方法とは以下のとおりです(内閣官房Q&Aより)。

①記載の代理権の確認方法が困難であると認められる場合には、官公署又は個人番号利用事務実施者・個人番号関係事務実施者から本人に対し発行・発給された書類その他の代理権を証明するものとして個人番号利用事務実施者が適当と認める書類(本人の健康保険証などを想定)。 

②記載の代理人の身元の確認の方法が困難であると認められる場合や、③記載の本人の番号確認方法が困難な場合についても、法令でもって、複数の書類をもって代替する方法など詳しく定めていますが、ここでは省略いたします。 

■扶養家族の本人確認
従業員の扶養家族の個人番号を取得するときは、企業・団体側が扶養家族の本人確認も行わなければならないのかについては、各制度の中で扶養家族のマイナンバーの提供が誰に義務づけられているのかによって異なります。 

例えば、税の年末調整では、従業員が、雇用主に対してその扶養家族のマイナンバーの提供を行うこととされているため、従業員自身が扶養家族の本人確認を行う必要があります。この場合、企業・団体側が、扶養家族の本人確認を行う必要はありません。

一方、国民年金の第3号被保険者の届出では、従業員の配偶者(第3号被保険者)本人が事業主に対して届出を行う必要がありますので、事業主がその配偶者の本人確認を行う必要があります。通常は従業員が配偶者に代わって事業主に届出をすることが想定されますが、その場合は、従業員が配偶者の代理人として個人番号を提供することとなりますので、事業主は代理人から個人番号の提供を受ける場合の本人確認を行う必要があります。なお、配偶者から個人番号の提供を受けて本人確認を行う事務を事業者が従業員に委託する方法も考えられます(内閣官房Q&Aより)。

■リスクについて
以上のように、なかなか、事務作業などが複雑で厄介な感じですので、企業・団体の担当の方は今から十分に学んでおく必要があります。 

そのようなマイナンバー法ですが、いまだに多くの問題点が指摘されています。
現代社会において極めて重要な基本的人権であるプライバシー権(自己情報コントロール権)の核心的内容は、情報主体の「事前の同意」による情報コントロール権です。その権利の前提は、情報主体による情報利用の認識、認容が必要ですが、いまだ多くの国民が、マイナンバー法の内容を理解しているとは思えない状況です。そのような中で、マイナンバー法制度が実行されようとしていることは、きわめて危険な状況に思えます。

マイナンバーに含まれる個人情報は、私生活のさまざまな分野に及んでいます。家族構成や資産状況、納税情報、癖や病歴、はては前歴など、およそ他人に知られたくない情報も含まれています。このような情報が「名寄せ・統合」され一元的に管理されていくわけで、管理の瑕疵のために情報が流出するようなことになれば、大きなプライバシー被害が発生しかねません。また、怖いのは「なりすまし」によって他人にマイナンバーが取得されて被害が発生することです。先行する米国では、驚くほど頻繁にそういった被害が出現しています。現時点で、なおこれら不安を完全に払しょくできているシステムが構築されたかどうか、いまだに危惧されます。

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