社会保険労務士法人村松事務所

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「組織原則が組織運営の問題を解決する」編

18.08.30 | ミニコラム

<処遇は成長によって決まる原則>

世の中にある賃金制度の最大の問題点は、論者によって違いがあったとしても、
「社員の成果の違いによって賃金に差をつける」と主張していることです。

経営者もその考え方に当然ながら賛同しています。優秀な社員には昇給・賞与
をたくさん支給していたからです。そして優秀でない社員にはあまり支給して
いなかったからです。

差をつけるという考え方通りに経営者はやってきたでしょう。ただ、「本当に
その差で良かったのかどうか」、このことには自信がないようです。

もう少し差をつけたほうが良いのか。差をつけないほうが良いのか。この差が
社員の今後の成長にどのような影響を与えるのか。様々な論者の意見に耳を傾
けてきたでしょう。

しかし「差をつける」という発言自体が、実は全体の業績に影響を与えていた
ことに気がつかれた方はあまりいないようです。

「昇給・賞与に差をつける」と言った瞬間から、差をつけてもらいたい人、そう、
優秀な人の行動が変わります。昇給・賞与をたくさんもらうための道は大きく分
けて2つしかないからです。

「成果が高ければ昇給・賞与が多いのであれば、これからも高い成果を上げるこ
とに邁進しよう」という気持ちも今まで通り持つでしょう。でも、もっと簡単な
方法があることに早晩気がついてしまいます。成果の上がるやり方を他の社員に
教えないということです。

教えなければ自分はダントツの成果を上げることができる。ダントツの成果を上
げれば賃金差をつけてもらうことができる。私が一番高い昇給・賞与をもらえる
と考えての行動です。

この瞬間から組織の中で「教え合う」ということがなくなり、なかなか成果が上
がらない社員、失敗する社員は、組織の中でますます成果を上げられなくなって
いきます。

どこの会社でも、若い人が成果を上げる方法は1つしかありませんでした。先輩
や上司からその仕事の仕方を教えてもらうことです。教えてもらいながら成長し
ていったのです。

教えてもらい、失敗の数を減らし、そして励まされながら成長してきたものです。
それが、「差をつける」と発言してしまったばかりに、この組織風土が根底から
覆されてしまった企業が数多くあります。この現状を変えなければ、基本的にそ
の企業の存続発展は難しくなります。

特に高い成果を上げた社員が、他の社員に成果が上がる方法を教えずに仮に上司
という立場になったらどうでしょうか。組織は、その上司を受け入れることがで
きるでしょうか。

他の社員に教えず、困っている社員を助けなかった社員が、優秀だと組織から評
価されて上司に任命したとしても、その組織に所属する部下となった社員は初め
から感情的に受け入れることはできません。とても尊敬できる人間ではないからです。

多くの企業で問題になったこの事態から脱却するためには、経営者が宣言しなけれ
ばならないことがあります。それは、「処遇は格差をつけることではない。全ての
社員が優秀になっていい」ということです。

例えば、全社員が成長等級の9等級になること。全社員の成長点数が100点になること。
それが、経営者の心からの願いであることを伝えなければなりません。

その発言に、社員は当然驚きながらも、小躍りして喜ぶことになるでしょう。「みん
なで一緒にこの組織で優秀になれる。そしてみんなが一緒に高い昇給・賞与を手に
入れることができる」。そのことに、嫌な思いを持つ人はいません。本当は全社員、
それを願っていたのです。

そして、最後に経営者はもう1つ伝えなければなりません。誰もが最初に100点を取
れることはなく、少しずつ階段を上るように20点……30点……40点……と成長して
いくことです。

全ての社員の昇給・賞与は成長によって増えていくことになります。成長によって
差がつけられているのではなく、成長に合わせて決まっているということです。

「私はどうして、Aさんと比べて賞与が5万円少ないのですか」ということがあったら、
Aさんへ一言伝えてほしいのです。

「あなたも同じような成長点数になれば、同じ賞与になった可能性があります。
応援しますから、一緒に成長していきましょう。
ただ、最も大切なことは賞与をたくさんもらうことではありません。賞与は必要です。
しかしそれ以上にあなたはこの会社で成長し、世の中に貢献することを考えて行ってほしい」

この経営者の一言が必要であることを忘れないでください。

   = この続きは、来月またお送りいたします。 =

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