大阪プライム法律事務所

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贖罪寄附

19.08.02 | 非営利・公益

吉本興業の所属タレントが反社会的勢力の会合に出席して金銭を受け取っていた問題で、宮迫博之さんと田村亮さんが、「公益社団法人全国被害者支援ネットワーク」に寄附した計150万円(宮迫氏100万円、田村氏50万円)について、その法人側が受け取りを辞退したことが7月26日に報じられました。その法人は、「反社会的勢力から得た疑いのあるお金を受け取ることはできない」と話しているそうです。
こうした、社会へのお詫びの意味を込めて公益的な団体に寄附をすることは、「贖罪寄附(しょくざいきふ)」として、よく行われることです。どうして、こういう事態になったのでしょうか。

■贖罪寄附とは
贖罪寄附とは、一般的に、刑事被告人や被疑者が、自ら犯した罪をわびて、反省の意味を表すために行う寄附をいいます。被害者のいない交通事犯、脱税事犯、薬物事犯など、いわゆる被害者なき罪を犯した場合や、被害者との間で示談が出来ない事情がある場合などに、弁護士会の法律援助事業基金や、法テラスなどの司法関係団体や、公益活動をしている団体などに寄附をする場合が一般的な形態です。刑事事件において贖罪寄附をした場合は、有利な情状として量刑に斟酌される場合や、起訴前ならば検察官による起訴猶予処分の可否を判断する際に有利になる資料ともなりえます。犯罪に当たらない事案においても、社会に向けて反省の姿勢を示す意味で行う場合も、贖罪寄附として観念することができると思います。 

■今回の寄附について
今回、吉本興業のホームページでの説明によると、宮迫博之(雨上がり決死隊)、田村亮(ロンドンブーツ1号2号)、HG(レイザーラモン)、福島善成(ガリットチュウ)、くまだまさし、パンチ浜崎(ザ・パンチ)、木村卓寛(天津)、ムーディ勝山、 スリムクラブ、ディエゴ(ストロベビー)、2700については、特殊詐欺グループ、反社会的勢力が参加する会合・パーティへの参加で、被害者の損害のもとで得られたものと推定される金員を受領したことになっていることを踏まえて、被害者の方々への支援につなげるべく、吉本興業から、NPO法人消費者スマイル基金に150万円、NPO法人消費者機構日本に150万円、合計300万円を寄附したとのことでした。

そして、宮迫氏と田村氏については、自らが寄附先を選定し、公益社団法人全国被害者支援ネットワークに自ら寄附をしたということのようです。

この寄附にあたっては、各タレントが報道された会合等への参加により受領した金額に対してヒアリング結果等から負担金額を認定し、直接の寄附をした宮迫氏、田村氏を除くタレントらは、吉本興業に対して負担金額を弁済することになったようです。

■2名の寄附先からの返金
ところが、宮迫氏と田村氏が自ら実施した寄附先である「公益社団法人全国被害者支援ネットワーク」からは、寄附金の受領を辞退するに至ったようです。

これについて、吉本興業がホームページで経緯が説明されていて、吉本興行側から直接的に寄附をすることについての懸念を説明し会社を通じての寄附を提案したが、2名は賛成せず、自ら寄附先を選定し実行したということのようでした。

これが事実だとすれば、 宮迫氏と田村氏が自ら「公益社団法人全国被害者支援ネットワーク」を寄附先と決めた上で、そこに自ら直接に寄附をしたものの、拒否されたということになります。

一般的に寄附をする場合には、街頭募金のように不特定の方々からの募金や寄附を受け入れる場合は別として、まとまった金銭や物品について寄附の申し込みをする場合は、事前に連絡をして了解を得て行うのが通常です。受け入れる側は、一定の条件を満たす場合だけに受け入れを行う場合があるからです。

今回の公益社団法人全国被害者支援ネットワークも、そこのホームページを見ると、「全国被害者支援ネットワークでは、被害者やそのご家族のお気持ちを考慮し、犯罪加害者による償い目的のご寄附は受け付けておりません。どうかご理解ください。」と、一定の場合は拒否をすることが明記されています。宮迫氏らは、直接的には犯罪加害者自身ではありませんが、寄附予定の金銭自体は犯罪加害者から受け取ったお金であることを踏まえると、拒否をされる可能性は想定し得たかとも思われます。

いずれにせよ、事前に連絡をせずに勝手に寄附をして一方的に公表した点には、少し稚拙であったと言えるかもしれません。

 ■贖罪寄附について
かつて、ある公益法人から、社会を賑わした殺人事件の被告人から寄附の申し入れがあったが、これを受け入れるべきかどうか、という相談を受けたことがあります。その相談の趣旨は、かかる犯罪者からのお金を受け取っても、倫理上問題はないか、ということからでした。そのとき、私は、「贖罪寄附」という概念があって、ある事情で犯罪被害者が賠償金を受け取らない場合とか、犯罪被害者がいない場合などに、自分の罪を心から悔悟し、反省の意味を込めて公的な団体に寄附をする場合は、これをもって広く社会に役立つことになるならば、贖罪のための寄附として受け入れても、受け入れ側に社会的非難は生じないのではないか、ということを回答したことがあります。

今回、受け入れ拒否をした団体は、同団体自身の一貫した判断でしたので、それ自体をあれこれ言うことはありませんが、犯罪被害者のための活動資金に役立つ寄附であったならば、贖罪のための寄附として、受け入れを行うということもあってもいいのではないかな、という気もしないではありません。皆様方は、この点、どのように考えますでしょうか。

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