大阪プライム法律事務所

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「University of Osaka」と「Osaka University」大阪大学はどっち?

20.07.12 | 非営利・公益

大阪府立大と大阪市立大を統合し2022年度から「大阪公立大学」とされることになりました。それ自体はいいのですが、その英語表記を「University of Osaka」とすると公表したために、「Osaka University」の大阪大が反発し、6月29日に、大阪大は大阪府、大阪市や大学法人に再考を求めました。これに対して、吉村洋文知事は「変えることは考えていないし、混乱もしない」と撤回する気配がありません。私の出身大学だから言うのではないですが、確かに紛らわしいのは明らかですので、ぜひ大阪公立大には再考してほしいと思います。ただ、ことはそう簡単ではなさそうです。

■大阪大の抗議
表記が決まった6月26日に、大阪大は早速に、「本学の英語名称『OSAKA UNIVERSITY』は、長年にわたり使用している名称であり、海外においても広く認識され、定着しているところです。大阪公立大学の英語名称はこれと酷似しており、今後、受験生や本学の学生・卒業生をはじめ、一般市民の皆様、特に海外の研究者、学生に大きな混乱を招き、世界にはばたく両大学の未来にとって非常に大きな障害となることは必至です。」という、西尾章治郎学長のコメントを発表しました。そこには、「そのような事態にならないよう憂慮しておりましたが、結果として、双方の間で意見交換が行われないまま決定がなされたことは誠に残念でなりません。」と、いきなりの発表であったことも書かれています。
(写真は大阪市立大学キャンパスの門)

■具体的事例を挙げての追加主張
さらに、大阪大は6月29日には、以下のように英語圏の大学や論文での表記などを挙げ、新大学の英語名は既に大阪大の名として認知されていると追加主張をし、大阪大が国際的に「Osaka University」だけでなく「University of Osaka」としても広く認知されていることは明らかだとして、重ねて、大阪公立大の英語名称の再考を強く求めました。
①「University of Osaka」は、大阪大学(Osaka University)と同義であるとすでに認知され、これまでにも海外で広く使われてきたという事実(具体的事実を列記)。
②「University of Osaka」は学術論文や学術書においても、大阪大学の英語名として長期間使われてきたという事実(具体的事実を列記)。
③ 英語圏以外でも、「Osaka University」と「University of Osaka」を区別できない例があるという事実(具体的事実を列記)。
④ ネット上では「Osaka University」、「University of Osaka」はリンクされ、常に相互参照可能となっているという事実。

この中で、大阪大は、中国の大学同窓会、在学留学生、留学希望者に対し、緊急にオンラインアンケート調査を実施したとし、回答者の99%以上が、「Osaka University」 と「University of Osaka」は、『混同しやすい』、『非常に混同しやすい』との意見であり、ア)本学を卒業後、欧米に留学する場合、混乱を招く可能性が高い、イ)海外での就職への影響が大きい、ウ)国際学術交流活動への影響が大きい、などの深刻な心配の声が寄せられていることを紹介しています。 

■学校の名称と「不正競争防止法」
学校名称の類似についての裁判例として、青山学院大学事件というのがあります(東京地裁平成13年7月19日判決)。これは、「青山学院大学」「青山学院中等部」等の学校を設置運営する学校法人が、被告が設置運営する中学校に「呉青山学院中学校」、ローマ字表記、英語表記として「Kure Aoyama Gakuin」、「Kure Aoyama Gakuin Junior High School」の名称を用いる行為は、不正競争行為に当たり、同時に「青山学院」「AOYAMA GAKUIN」等の原告の商標権を侵害するとして、これら名称等の使用差止めを求めた事件です。判決では名称の差止を認めました。同様の紛争としては、京都造形芸術大学(私立)が名称を京都芸術大学に変更したことに対し、京都市立芸術大学が名称差止を求めて提訴して、大阪地裁で審理がなされています。

大阪公立大学側が方針を変えなければ、大阪大学としては、同様に不正競争防止法に基づいて訴訟を提起するという事態もあり得ます。 

■類似例
吉村知事は、そのコメントで、国立大学と都道府県が設立した公立大学の校名が類似している例があると言っています。調べてみると、国立大学と地元県立大学とでは、
京都大学 Kyoto University   京都府立大学 Kyoto Prefectural University
岩手大学 Iwate University   岩手県立大学 Iwate Prefectural University
新潟大学 Niigata University 新潟県立大学   University of NIIGATA PREFECTURE
などのように、公立大学では「Prefectural」や「PREFECTURE」などの「県」の言葉を入れるのが大半のようです。

大阪大学からすれば、こうした傾向から「大阪公立大学」ならば、「Prefectural」や「PREFECTURE」を表示して頂けたら、問題は解消すると思いたくなります。東京大学の場合はThe University of Tokyoで、東京都立大学はTokyo Metropolitan University という表記をしているのもあります。

これと同様に、大阪公立大も、Osaka Metropolitan Universityと「Metropolitan」(大都市・首都)を入れるのもいいかもしれません。大阪は首都ではないですが、かつては「大大阪」とも言っていた時代があったことを踏まえると、許されてもいいような気もします。

しかし、「Osaka University」と「University of Osaka」と同じ形のものも4例ありました。
静岡大学 Shizuoka University  静岡県立大学 University of Shizuoka
島根大学 Shimane University  島根県立大学 University of Shimane
高知大学 Kochi University     高知県立大学 University of Kochi
長崎大学 Nagasaki University 長崎県立大学 University of Nagasaki
このような事例があるために、この問題をより複雑にしています。 

■ただ、私が思うのには、海外から見た場合、「University of Osaka」は学術論文や学術書において大阪大学の英語名として長期間使われてきたという事実からして、せっかく大阪公立大学の優秀な先生が海外で論文発表をしても、大阪大学の先生の論文としてカウントされてしまう可能性が高いのではないと思います。内部からそうした指摘は出ないのでしょうか。こんな点も踏まえると、大阪公立大学の今回の英語表記は、そうした身内の研究者の保護という視点からも、ぜひ再考してほしいものです。

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