大阪プライム法律事務所

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地方公共団体での第三者調査委員会指針

21.04.25 | 非営利・公益

日本弁護士連合会は、2021年3月19日付けで「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」を取りまとめました。昨今、様々な行政分野において、地方公共団体が第三者調査委員会を設置し、弁護士がその委員等に選任されるなどの事例が少なくないため、弁護士が委員等として関与しその調査等を実施する場合において参考となる指針を策定したものです。
日弁連では、すでに2010年に「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定しているが、これには対象組織に地方公共団体を含んではいるものの、各組織に共通する一般的な内容及び主として(上場)企業を念頭に置いた内容となっていました。しかし、地方公共団体においては、企業とは異なるステークホルダーを抱えており、公共性が極めて高いことを考えれば、企業の場合と同一に扱うことはできない点が多くあります。また、第三者調査委員会と称されるもののなかでも、設置形態が異なるものもあるなど、地方公共団体に特有の論点も少なくありません。そうした意味で、今回の指針は大きな意味があるものと思われます。

■第三者委員会とは
企業において、不祥事などのコンプライアンス上の問題が生じた際に、その企業が「第三者委員会」を設置して事実の解明と原因調査並びに改善策提言などを依頼することが多くあります。このような企業不祥事の際に第三者委員会を設置して調査をするという実務が広まったのは2000年代半ば頃からで、当事務所でもいくつかの調査委員会への参加をしてきました。その際に、参考として、三木がちょうど日弁連理事をしていた2010年に日弁連で「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定した以降は、そのガイドラインが大きな指針となってきました。その後、近年は、企業だけでなく、学校におけるいじめ問題や公益法人、とりわけスポーツ競技団体などでのパワハラ問題等においても、第三者委員会が活用されてきています。そして行政分野、とりわけ地方自治体職員による不祥事などの調査にもこれが活用される事例が増えてきています。このため、日弁連として地方自治体版を出すに至ったものです。この年度は、三木は日弁連常務理事として参加しており、10年前の企業版の際にも平理事として関わった者としては印象深いものとなりました。 

■課題
地方公共団体における第三者調査委員会調査は、様々な行政分野に関連して行われるので、調査も、その行政分野における個別の特徴、事情等から離れて一概に定型化することはできない特殊性があります。このため、この指針はあくまでも地方公共団体の事務に共通する事柄についての手順等を記したものであって、個別の行政分野の特徴、事情等を必ずしも十分に反映したものではなく、今後、適宜修正されることが予定されたものです。
また、他に参考とされるべき指針等が個別の行政分野に存在する場合は、当該分野に特有の問題に関しては、これらを優先して適用することも必要であると考えられます。

 ■今回の指針の概要
(1)第三者調査委員会による調査の趣旨等
第三者調査委員会による調査は、適法かつ適正な行政の執行を確保するため、公正・中立な立場から、関係法令等を踏まえ、対象事案につき原因を含む事実関係を究明・把握・認定し、必要に応じて再発防止策等に関する意見を形成し、これを報告することを目的とし、第三者調査委員会による調査は、適法かつ適正な行政の執行を確保するために行われるものであり、第三者調査委員会の趣旨・目的等を離れて民事上、刑事上の責任の有無又は所在を追及すること自体を目的とするものではないことなどが明記されています。 

(2)第三者調査委員会の設置、委員の地位
①執行機関の付属機関として設置する場合(地方自治法第138条の4第3項、第202条の3第1項)
調査主体は第三者調査委員会であり、その委員会を構成する委員は地方公共団体の長等から任命された非常勤特別職公務員であって、設置には条例の根拠が必要であるが、第三者調査委員会の趣旨を全うするために最も適した形態であるとしています。
②地方公共団体が外部の弁護士等に対し対象事案の調査を委託する場合
この場合は、弁護士等は地方公共団体から調査の委託を受けた受託者(私人)であり、調査の主体はその受託者であって、受託者はその地方公共団体との間において第三者調査委員会による調査の趣旨が確保される内容で委託契約を締結して行うが、その契約には本調査指針の内容を取り込むことが望ましいとしています。 

(3)委員のあり方
第三者調査委員会の委員は、適法かつ適正な行政の執行を確保するため、公正・中立な立場から、対象事案につき事実関係を把握・認定し、必要に応じて意見等を形成し、これを報告することを目的とするという趣旨にふさわしい識見を持ち、予断と偏見を排することができる者であり、かつ、利害関係を有しない者でなければならないとしています。
利害関係としては①対象事案に関して関係当事者から相談、意見照会等を受け、助言し又は自己の認識・見解等を述べたこと、②関係当事者との間に近い親族関係にあること、③関係当事者及び関係当事者が密接に関係する企業等の団体との間に取引関係を持っていること、④設置した地方公共団体との間に顧問契約等をしている場合、⑤設置した地方公共団体において職員(非常勤特別職員を除く)や議員の職にある場合などを例示するほか、これ以外にも特に配慮すべきである事項などが示されています。 

(4)調査の範囲・方法
委員は、調査を開始するに先立って調査計画を作成し、可能な限り調査を終了すべき期限を定めるものとすることや、調査計画に基づき、対象事案につき事実関係を究明・把握・認定等するために必要と考える事柄について広く調査するものとすること、委員会の設置者、調査の委託者等の意向に配慮し、調査の範囲を狭め、必要な調査を怠るようなことがあってはならないことなどの注意を喚起しています。 

(5)配慮
委員が配慮すべき事項として、調査、特に対象事案の関係者に対する事情聴取に当たって事案関係者の正当な権利利益を侵害しないよう細心の注意を払うとともに、いわゆる二次被害を防ぐために言動に注意し、物心両面にわたる負担にも相応に配慮するものとすること、事案によっては対象者名の秘匿を条件に事情聴取することも検討すべきであること、予断や偏見をもって調査に当たらないよう十分注意するよう求めています。また、調査協力が得られないような場合には、調査報告書にその旨を記載することも考える必要があるとしています。 

(6)合議体
合議体を形成する場合は、会長、委員長等の統轄者を定めること、可能な限り、事実関係の調査・分析等の専門家であり見識と良識のある弁護士をもって調査等を統轄する者に充てるのが望ましいこと、構成員が調査すべき事項等を分担し、調査を実施することは妨げられないことが明記されています。 

(7)記録
会合を開催した場合は、委員相互間で議論経過を把握するため、その都度、的確な議事録を作成し、配布資料とともに保存し、第三者調査委員会の目的・性質に反しない限り、公表することを考えるべきであること、調査を実施した場合は、その都度、的確な調書等の調査内容が分かる書面を作成し、保存することが望ましいこと、その他、いくつかの推奨事項が明記されています。 

(8)事実の認定
予断と偏見を排し、各種証拠資料を総合勘案し多様な視点をもって合理的判断過程を経て事実を認定するものとするとし、必ずしも証拠の優越をもって足りるとする見解を排除しないが、この場合は、第三者調査委員会が収集することのできた証拠資料の限りにおいて、どのような証拠を対比し、いずれが優越すると判断したかなどを明示するなどして事実を認定するに至った詳細な経緯を記すことが望ましいとしています。 

(9)意見
第三者委員会の意見は、認定事実と明確に区分すること、構成員の意見が分かれた場合は構成員ごとに意見を述べることができるとしています。多数決をもって委員会の意見とした場合は、構成員は報告書で補足意見又は反対意見を述べることができ、多数決でも意見がまとまらない場合は、その旨を記して結論とすることができるとし、構成員は、報告書においてそれぞれの意見を述べることができるとしています。

(10)報告
調査結果が出たときは、速やかに報告書を作成し、調査に当たって定められた者に対し提出するものとし、事実関係が判明しないなど調査の結果を得がたいときは、いたずらに調査を繰り返して日時を浪費せず、第三者調査委員会設置者と協議して、今後の方針を立て直すものとするとしています。そして報告書には、原則として次に掲げる事項その他必要事項を記載するものとしています。
①  本指針に準拠して調査を実施したものである旨
②  第三者調査委員会の趣旨・目的
③  調査対象事案の概要
④  調査に当たった第三者調査委員会の委員の地位、氏名及び役職
⑤  委員の利害関係の有無
⑥  調査の経過
⑦  調査の結果
⑧  意見
また、調査に当たって非協力・妨害があったときは、その旨を調査の経過において特記するものとするともしています。
さらに、報告書案の作成は、事務局が内容に実質上の関与するものであってはならないことや、報告書の作成前もしくは作成中に、委員会の設置者との間で報告書の実質上の内容に関して協議してはならないこと、必要と認めるときは、報告書提出先と協議したうえで、自ら調査の結果を公表することができるとしています。

 (11)事務局
調査対象事案に係る事務を司る者として定められた者に対しては、調査実施についての必要事務を依頼することができるとし、ただし、委員会の公平中立の観点から、事務局は、調査対象に利害関係のない部署に所属する職員をもってあてることが望ましいとしています。 

(12)守秘義務
委員は、調査に当たって得た関係者に関する秘密は調査終了後も秘匿しなければならないこと、合議内容を秘匿すべき秘密とするかどうかは、その合議体の判断によるとしています。

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