大阪プライム法律事務所

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「バーチャルオンリー型総会」は可能なのか

21.07.01 | 非営利・公益

今年も上場企業の株主総会が6月29日に集中して開かれました。東京証券取引所によるとその日だけで約630社が集中し、3月期決算の企業の3割近くを占めたようです。
今年の特徴としては、コロナ禍での2回目の総会であって、総会会場に足を運ぶ株主を減らす方策として、会場の様子をオンライン中継するところが大変に増えた模様です。他方、6月は、公益・一般社団法人や、NPO法人(特定非営利活動法人)の総会も多く行われました。
そのような季節を迎えるに際して、実際の総会会場を設けることなく、全てをネット空間だけで済ます「バーチャルオンリー型総会」(完全オンライン)の開催が可能かというご質問を受けました。この点に絞った講演などもさせて頂きましたが、このような形態での総会の方法は、現時点ではどこまで可能なのか、株式会社だけではなく、非営利の公益・一般社団法人や、NPO法人(特定非営利活動法人)の場合はどうであるのか、分かりやすく解説します。

■オンライン型総会の可能な形式
いわゆるオンライン型の総会というのは、実際の総会会場(リアル会場)をネット中継し、株主(公益・一般社団法人やNPO法人の場合は「社員」、以下同じ)は視聴するだけの「ハイブリッド参加型」のほかに、ネット参加の株主が議決権行使や質問もできる「ハイブリッド出席型」があります。

上場企業の場合、経済産業省によると、昨年2020年6月開催の株主総会において、ハイブリッド出席型で株主総会を開催したのは2344社中9社である一方、ハイブリッド参加型で株主総会を開催した会社は113社でした。今年は、いずれの方式も、もっと増えたものと思われます。

(1)ハイブリッド「参加型」総会とは
リアル総会の開催に加え、リアル総会の開催場所に在所しない株主(社員)が、総会への法律上の「出席」とはならないものの(定足数に入らず決議参加不可)、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる総会です。この方式は、現行の法解釈では全く問題はありません。

このような方式は、リアル総会の場に在所しない株主(社員)が、法人から通知された固有の ID やパスワードによる本人確認を経て、WEBサイト等で配信される中継動画を傍聴するような形で参加するもので、出席者のみ認められた質問や動議、決議参加はできません。しかし、事前に委任状や書面決議書で議案決議に参加していることが多く、当日の総会での役員の説明を聞ききたい場合には有効な方式(参加機会の拡充となる)といえます。

(2)ハイブリッド「出席型」総会とは
リアル総会の開催に加え、リアル総会の場所に在所しない株主(社員)が、インターネット等の手段を用いて、総会に法律上の「出席」をすることができる総会(定足数に入り決議参加可能)です。つまり、リアル出席者と共に審議に参加した上、総会における決議にも加われるという点で、「参加型」とは異なっています。

現行の法解釈では、この方式での総会開催も可能と解されていますが、開催場所と株主(社員)との間で情報の「双方向性」と「即時性」が確保されていることが必要要件とされています。そうした要件を満たしたならば、この方法は、株式会社、公益・一般社団法人、NPO法人(特定非営利活動法人)においても法的に可能と解されています。 

■「バーチャルオンリー型総会」は可能か
実際には総会の会場を設けることなく、全てをネット空間だけで開催する「バーチャルオンリー型総会」(完全オンライン型)については、NPO法人(特定非営利活動法人)では可能であると解釈されています。他方、株式会社や公益・一般社団法人においては法的にできないものと解されています。 

リアル

総会

ハイブリッド型総会

バーチャル

オンリー型

総会

参加型

出席型

 ■法的解釈の根拠
(1)株式会社について
現行の会社法では、株主総会を招集する場合に「日時及び場所」を取締役会で決定して、招集通知にて株主に通知することが明記されています。このため、株主総会の場所はリアル会場でなければならないと解され、結果としてハイブリッド型はともかく、会場を設けない「バーチャルオンリー型」での株主総会はできないこととなります。

法務省民事局長も、かつての国会答弁にて、「会社法上株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らすと解釈上難しい面がある」との見解を示していました(第197回国会法務委員会・平成30年11月13 日)。

(2)公益・一般法人について
現行の一般法人法も、会社法と同じく、社員総会を招集する場合に「日時及び場所」を決めるよう明記されていて、場所はリアル会場でなければならないと解されていることから、やはり「バーチャルオンリー型総会」は無効とされています。

(3)NPO法人(特定非営利活動法人)は可能とされている
他方、NPO法人では状況が異なっています。NPO法では、第14条の4において、「社員総会の招集の通知は、その社員総会の日より少なくとも5日前に、その社員総会の目的である事項を示し、定款で定めた方法に従ってしなければならない。」とあって、会社法や一般社団財団法人法などのような「場所」の通知を要するものとはしていません。

このこともあって、内閣府は、2020年に発表した「新型コロナウイルス感染拡大に係るNPO法Q&A」で、「社員が実際に集まらずとも、様々な新たなIT・ネットワーク技術を活用することによって、実際上の会議と同等の環境が整備されるのであれば、社員総会を開催したものと認められます。その場合、役員のみならず、社員も発言したいときは自由に発言できるようなマイクが準備され、その発言を他者や他の会場にも即時に伝えることができるような情報伝達の双方向性、即時性のある設備・環境が整っていることが必要です。」として、「バーチャルオンリー型総会」が可能であることを示しました。(ただし、定款で「場所」を決めて通知するように定めていた場合は、それに縛られるため、不可能となります。) 

■上場企業の株主総会では可能な途が開かれました
2021年2月から国会にかけられていた「改正産業競争力強化法」では、上場会社は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合には、株主総会を「場所の定めのない株主総会」とすることができる旨を定款に定めることができることとされるとしています。そして、施行後2年間は、大臣の「確認」を受けた上場会社は、定款の変更をしていなくても、バーチャルオンリー型を開催できる(強化法附則3条1項)とされました。これからは、積極的にその方式を採用する上場企業が増えてくるものと思われます。

■定款変更の実例
経済産業省によると、今年の総会では、武田薬品工業や、リクルートホールディングス(HD)、ソフトバンクグループなど約10社が完全オンライン(バーチャルオンリー型)が可能なように定款変更をしたようです。その大半は、完全オンラインは非常時対応を想定している内容のようです。

例えば、武田薬品工業では、6月に開催した株主総会で、完全オンラインを開けるように定款を変更する議案を提出しました。以下が、定款に追加した事項です。
「当会社は、感染拡大または天災地変の発生等により、場所の定めのある株主総会を開催することが、株主の利益に照らして適切でないと取締役会で決定したときは、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる。」

 ■今後について
このように、上場企業ではバーチャルオンリー型総会の途が開かれましたが、将来的には法改正がなされて、中小企業や公益・一般社団法人などでも可能となっていくのかもしれません。

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