大阪プライム法律事務所

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NPOバンクとは?

10.10.11 | 非営利・公益

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NPOが運営する「NPOバンク」の設立が全国で相次いでいるとの記事が、先日の日経新聞(2010年10月11日朝刊)に出ました。記事によると、今年に入り福島県と石川県で新団体が発足したほか、和歌山県や宮崎県などでも設立準備が進んでいるとのことです。NPOバンクとは・・・(写真もしくは「続きを読む」をクリックして本文をお読みください)
←「おカネが変われば世界が変わる‐市民が創るNPOバンク」田中優編著)

 


 
 

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NPOが運営する「NPOバンク」の設立が全国で相次いでいるとの記事が、先日の日経新聞(2010年10月11日朝刊)に出ました。記事によると、今年に入り福島県と石川県で新団体が発足したほか、和歌山県や宮崎県などでも設立準備が進んでいるとのことです。 (写真は風力発電用風車・・本文を参照)

 

日経の記事によると、NPOバンクは、昨年末時点で12団体、3月末時点での全国融資残高は約2億円、累計融資額が約21億円とのことです。

NPOバンクとは

NPOバンクと呼ばれている組織は、個別にみると、それぞれ理念や組織、融資対象などに違いがあります。共通した特徴は、環境や福祉などに関心を持つ市民から出資金を集め、NPO活動やコミュニティビジネスに融資し、社会的課題の解決のために市民のお金を有効に循環させているという点かと思います。運営形態としては、組合を設立して貸金業の許可を取得し、市民が組合員となって、1口数万円単位の出資を行い、それを原資として融資するという形が多いようです。

バンクの言葉が付いていますが、銀行法上の「銀行」ではなく、法的には貸金業者です。このために預金は扱えません。出資なので元本保証はなく、出資に対する配当はどこも行っていません。単一組織のNPOバンク(民法組合、任意団体など)のパターンと、組織併用するパターン(NPO法人と民法組合、民法組合2つの組み合わせ、任意団体2つの組み合わせなど)が見られます。組織併用の主な理由は、出資の受け皿と融資主体とを分けていることからと思われます。どの組織も、財産・人員とも小さく、地域に密着した活動をしているという点も共通しています。そのため基本的にボランティアか、母体組織のスタッフによって運営されていることが多いようです。

全国NPOバンク連絡会のホームページによると、以下のように紹介されています。

NPOバンクは、市民が自発的に出資した資金により、地域社会や福祉、環境保全のための活動を行うNPOや個人などに融資することを目的に設立された「市民の非営利バンク」のことで、「金融NPO」「市民金融」などとも呼ばれています。最初のNPOバンクは1994年に設立された「未来バンク事業組合」(東京都)で、以後全国各地に続々と誕生しています。

NPOバンクの運営の特徴は、趣旨に賛同する市民やNPOが組合員となり、1口数万円単位の出資を行い、それを原資にNPOや個人に低利(1~5%程度)で融資する、ということです。出資者にとっては、元本保証がない、出資金を自由に引き出せない、などのデメリットもありますが、目に見える形で自分のお金が運用されることが最大の魅力となっています。

融資審査は、税理士などの専門家が財務面だけでなく、事業の社会性やオリジナリティといった多様な観点から行っています。融資申込者とは必要に応じて何度も面談し、融資実行後もウェブサイトやニュースレターを通して融資先を公開するなど、「顔の見える」関係づくりを心がけているため、NPOバンクでは貸し倒れの発生は低率に抑えられています。


最近の危機

本年6月に完全施行された改正貸金業法が、貸金業者に対して最低財産要件の引き上げや過剰貸付契約禁止(総量規制)などを規定したことから、この法律の規制下に入るNPOバンクは存続の危機に見舞われた。特に最低財産要件の引き上げ(500万円から5,000万円)に関しては、特に新設のNPOバンクにとってハードルが高くなりすぎるとの声が生じました。運動の結果、NPO法17分野の事業や生活困窮者への貸付など、いくつかの条件を満たした場合には適用除外することが内閣府令に盛り込まれ、この懸念は消えました。

「NPOバンク」と「市民バンク」

両者は似通っていますが、「市民バンク」というのは、(株)プレスオールターナティブ代表の片岡勝氏が始めたもので、永代信用組合(当時)との提携により始められた提携融資制度のことをいいます。実際の融資は信用組合が行う点が、自ら融資するNPOバンクと異なります。市民バンクは、その後、東京都信用組合協会(現在は江東信用組合・青和信用組合が実施などにも広がりをみせていると言われています。

社会的目的ファンド

市民主体での市民活動への資金援助という意味での「ファンド」も、近年多く現れてきています。

2001年に北海道浜頓別町に誕生した風車「はまかぜ」は、建設費用2億円のうち約8割が市民からの出資と、「NPO法人北海道グリーンファンド」に集まったお金でまかなわれました。日本で初めての「市民風車」です。「原発や化石燃料にばかり頼らずに、自然エネルギーで電気をつくりたい」といった思いを共通にした人たちがお金を出し合って建設されました。その後、青森、秋田、千葉、茨城と「市民風車」が次々に誕生しました。出資に参加した市民も大変な大きさになりつつあります。

大阪NPOセンターでは、社会的な諸課題を解決しようという「志」を持つ社会起業家を支援するしくみとして、市民社会創造基金(以下、「“志”民ファンド」)を醸成し、助成事業を行っています。“志”民ファンドの原資は、社会起業家を支援する「志」をもつ社会投資家の寄附によるものです。そして、社会投資家が直接、社会起業家の事業プランを聞き、自己の起業経験、経営実践により得られた知恵(実践知)によって、審査を行います。また、助成先には資金支援のほか、事業活動に資する経営診断、指導(コンサルティング)をあわせて実施いています。

世界での動き

世界には、日本よりも先駆けてよく似た目的・機能を持った金融機関があります。

「マイクロクレジット」は、バングラデシュのグラミン銀行やBRACなどが有名で、農民や都市スラム住民などの貧困層に対し、少額資金を融資して経済的自立を図る手法で、アジア・アフリカなどの貧しい途上国に普及しています。

「コミュニティ開発金融機関(CDFI)」は、貧困地域の活性化、社会的不利益層の経済的自立を図るため、少額の資金を融資する金融機関で、欧米諸国で普及しています。

「ソーシャルバンク」は、イギリスのチャリティ銀行やオランダのトリオドス銀行、イタリアの倫理銀行、ドイツのGLSコミュニティ銀行などが知られていて、自然エネルギーや有機農業、障害者雇用などの、社会的目的の強い事業に融資しています。銀行ですので、一般市民からの預金も扱っています。


背景と課題

こういった資金支援の運動が、日本にも広がってきた背景は、日本の市民活動が大きな広がりをしてきているのに対して、その立ち上げ資金や運営資金を支援する金融システムが整備されてこなかったことが大きいと考えられます。このため、市民活動の発展を図るために、市民自らが立ち上がって作り上げてきたシステムと言えます。「資金不足に悩む市民活動」と、「自分のお金を社会に活かしたい市民」とをマッチングさせようという試みと言えます。

このような新しく始まった動きは、市民活動を発展させる大きな力となると期待するところですが、課題も多くあります。NPOの資金ニーズが高くとも、いまの日本の市民活動のマーケット自体がまだ小さいことが最大の課題かと思います。大阪NPOセンターが行う「志民ファンド」では、この点を克服するために、資金支援(助成)のほか、事業活動に資する経営診断、指導(コンサルティング)をあわせて実施しています。こういった活動も、これからますます必要となってくるものと思います。
 

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