大阪プライム法律事務所

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ゴルフ場と公益法人制度

12.05.15 | 非営利・公益

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佐賀県公益認定等審議会は、平成24 年1 月17 日に、ゴルフ場を運営する財団法人(特例民法法人)の出した公益認定申請に対して、不認定の答申をしていたことが分かりました。ゴルフ場運営事業の公益性に疑義が示された結果のようです。

従来の社団法人や財団法人形態のゴルフ場は、このたびの公益法人改革で、来年2013年(平成25年)11月までに、「公益社団法人・公益財団法人」か「一般社団法人・一般財団法人」かに移行しなければなりません。現在、これら法人の対応が注視されており、いくつかの認定や一般への移行事例が出てきているところですが、不認定答申が出たのは初めてです。どのような申請だったのでしょうか。
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■この申請法人は「財団法人筑後川リバーサイドスポーツセンター」です。
答申書によると、この申請法人は、昭和44年に設立され、以後、筑後川の河川敷において、低廉な料金によりゴルフ場の利用を提供する事業を実施することにより、スポーツを通じて、一般住民の体位向上を図るとともに、社会体育の振興発展に寄与するという目的で運営がなされてきたとのことです。
 
この申請法人が定款の変更の案に掲げた目的及び事業は、以下の通りです。
(1)目的 この法人は、スポーツを通じて、一般住民の体位向上を図るとともに、社会体育の振興発展に寄与することを目的とする。
(2)事業 
ア ゴルフ練習場を主とし、多目的広場等を運営する。
イ その他この法人の目的を達成するために必要な事業
 
そして、申請に係る公益目的事業は、「ゴルフ練習場の運営を主たる事業として実施するほか、野球およびソフトボール並びにサッカー等といった多目的広場の管理運営」のみで、以下のアからエまでの四つの事業から構成され、この公益目的事業比率は「89.6%」で、それぞれの公益目的事業比率は、ア88.1%、イ0%、ウ1.5%、エ0%となっていて、結局、「ゴルフ場運営事業」が、大半を占めていることになります。
ア ゴルフ場運営事業
イ ゴルフ教室(申請書によれば計画段階で具体的活動内容については未定)
ウ ゴルフ競技会
エ 多目的広場の管理運営
 
■答申のポイント
答申では、この法人の「公益目的事業該当性」についての検討が以下のようになされました。(以下、答申書のポイントを箇条書き)
 
・公益認定を受けるためには、「公益目的事業」を行い、かつ、その公益目的事業比率が100 分の50 以上となることが必要。
・申請に係る公益目的事業89.0%のうち、「ゴルフ場運営事業」が88.1%を占めている。
・県内におけるゴルフ場は、申請法人が設立される前は、営利企業によるゴルフ場3か所しかなかったが、その後、建設が進み、現在では、営利企業によるものが21か所、財団法人によるものが申請法人を含め2か所という状況となっている。
・県内において営利企業によるゴルフ場が普及した今日において、ゴルフ場運営事業が公益目的事業に該当するかであるが、この点に関しては、すでに、公益法人の指導監督等に関する行政監察結果に基づく勧告(昭和60年9月10日総務庁)において、「公益性が不明確となっている法人」の事業の例として、ゴルフ場が挙げられており、「営利企業による経営が著しく普及したことに伴い、営利企業の事業と競合する結果となり、公益法人の事業として行う妥当性が乏しくなっている」旨が、勧告されていた。
・申請法人が設立された当時は、県内においてゴルフ場が少なく、申請法人の行うゴルフ場運営事業は、公益目的として社会的に評価されていたが、今日では、県内に多くの営利企業によるゴルフ場が建設され、申請法人の運営する筑後川河川敷のゴルフ場の下流域にある河川敷を利用したゴルフ場は営利企業により運営されるなど、社会経済状況が変化してきており、今日においては、公益目的としての意義に疑義が生じている。
・申請法人の行うゴルフ場運営事業が、営利企業の行う事業とどのように違い、どのような公益性を生み出しているのかについて、行政庁から申請法人に対して、説明を求め、法人と協議を重ねたが、低廉な価格に設定しているという申請法人の主張も含め、営利企業との違いを見出すことができず、公益目的事業と認めることができない。
・結論として、公益事業比率の88.1%を占める「ゴルフ場運営事業」は公益目的事業として認めることができないから、公益目的事業比率100分の50を下回ることは明らかである。
 
■一旦取り下げか
この法人は、その後、不認証決定がなされる前に、一旦申請を取り下げたのではないかと思われます。出直して、再度出すのか、もしくは今度は一般財団法人を目指すのかは、分かりませんが、おそらく後者になるのではないでしょうか。
 
■気になる点
今回の事例は、不認証になったこと自体は、特に問題はないと思われます。ほぼ全てがゴルフ場運営事業であって、どのような公益性を生み出しているのかについての説得力ある説明ができなかったということからして、公益性を認めるのは困難であったと思われます。ある意味で、他の同種ゴルフ場事例の先例になるかとも思います。
ただし、全国公益法人協会が発行しています専門誌「公益・一般法人」819号の巻頭言にもありましたように、これを、単に「営利企業と競合する事業は公益目的事業ではない」という一般論にしてしまうと、問題があります。あくまでも、個別事案での事例と考えたほうがいいと思います。
 
■わが国の社団法人のゴルフ倶楽部
これらは、大半が戦前に設立されたものです。その後は、ほとんど公益法人としてのゴルフ倶楽部は許可されていません。当初は、ゴルフ人口も極めて少く、ゴルフという競技を社会に広める目的を持って組織されたゴルフ倶楽部は、非営利であったこともあり、民法による公益法人として設立許可がされました。ゴルフ場を経営する社団法人は全国に32法人を数えました。しかし、今日では、営利企業によるゴルフ場が多く建設され始めてからは、公益目的としての意義は大きく減少しました。このようなことから、今般の公益法人改革の中で、ゴルフ場のような社団法人は整理の対象として明示され、現在、その多くが、一般社団法人への移行を進めたり、中には解散したところも出てきています。すでに一般社団法人となったところとしては、福山ゴルフ倶楽部(広島県)、那須ゴルフ倶楽部(栃木県)、鳴尾ゴルフ倶楽部(兵庫県)があります。
 
現在、まだ認定または移行が済んでいない関西での社団法人ゴルフ場としては、茨木カンツリー倶楽部、芦屋カンツリー倶楽部、神戸ゴルフ倶楽部、宝塚ゴルフ倶楽部、西宮カントリー倶楽部、広野ゴルフ倶楽部があります。このうち、最も古く開業した神戸ゴルフ倶楽部は、公益認定を目指しているのではないかとも思われていますが、どうなのでしょうか。
 
■程ヶ谷カントリー倶楽部(神奈川県)について
このように、大半のゴルフ倶楽部が一般社団法人化の道を歩む中で、程ヶ谷カントリー倶楽部は、認定を受けて「公益社団法人」になったという話があります。
 
ところが、よく見ると、ここの公益認定後の名称は、「公益社団法人程ヶ谷基金」となっていて、どうも様子が違います。このゴルフ場の不動産は、株式会社が所有していて、社団法人がゴルフ場の運営だけを行っていました。今回、社団法人自体はゴルフ場の運営を、その株式会社に事業譲渡して切り離し、公益目的事業に絞って、名称も「程ヶ谷基金」に変更して公益社団法人への申請を行っています。
 
程ヶ谷基金の事業内容を見ると、男女共同参画・少子化に関する研究、ゴルフ場を利用した青少年育成、地域の文化・スポーツ等への貢献が公益目的事業としてあげています。「ゴルフ場の経営」は完全に事業内容から消えています。したがって、ゴルフ場経営の社団法人が公益認定を受けたというのは、正しくはありません。
 
■参考:不認証答申の法人一覧
2012年1月17日 財団法人筑後川リバーサイドスポーツセンター【佐賀県】
2011年12月9日 一般財団法人東京シティ・フィル財団【内閣府】
2011年10月31日 財団法人柏会【東京都】
2011年5月20日 社団法人福岡県中央卸売市場鮮魚市場協会【福岡県】
2011年3月23日 社団法人沖縄県公共嘱託登記土地家屋調査士協会【沖縄県】
2011年2月25日 社団法人日本加工食品卸協会【内閣府】
2010年8月26日 一般社団法人横浜みなとみらい21【神奈川県】
2010年8月26日 社団法人多治見青年会議所【岐阜県】
2009年11月27日 社団法人日本下水道施設管理業協会【内閣府】
 
それぞれ不認証答申の理由は異なっています。また、機会があれば、分析してみたいと思います。
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