大阪プライム法律事務所

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「さいたま市市民活動サポートセンター」騒動の衝撃

15.10.18 | 非営利・公益

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突然に入ってきたニュースに驚きました。さいたま市市民活動サポートセンターにおいて、そこを使用するための登録団体制度が問題視され、市議会で「サポートセンター条例」の改正案が10月16日に決議され、来年度から指定管理制度をとりやめるという異常な事態となっています。

このセンターは、公募によって、さいたまNPOセンターが指定管理者となり、市民とさいたま市の「協働管理運営」型サポートセンターとして運営されてきたところです。ところが、ある市議会議員が、施設を優先利用できる登録団体のごく一部を取り上げて、それら団体が「政治活動をしている」と言い出し、それを許している原因は指定管理にあると考えたのか、市の直営に変更する条例改正案を出し市議会本会議で可決されました。

この経緯は、なお詳細不明な点もありますが、報道や当事者の発信情報を伝え聞く限り、指摘した議員の「市民活動」に対する理解不足か著しい誤解があるように思えます。さらに、憲法で保障された集会の自由の保障が不当に制約されかねないもので危険な感じがします。この問題は、全国にある公設民営の市民活動サポートセンターにも影響を与えかねず、市民社会への脅威ともなりえる問題です。今後、注視していかなければならないと思います。

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■可決された議案とは
指定管理者への委託を定めた条例の規定を「管理の基準や必要な事項を定めるまでの間、適用しない」などとする内容を付則に盛り込んだものでした。それを報じた東京新聞と地元の埼玉新聞の記事は以下のとおりです。
 

■東京新聞(2015年10月17日)
さいたま市議会 市民活動の施設直営に 条例案可決「集会制限の恐れ」
施設を優先利用できる市民団体の一部が「政治活動をしている」として、さいたま市の市民活動サポートセンターの運営を指定管理者から市の直営に変更する条例改正案が、16日の市議会本会議で自民、公明などの賛成多数で可決された。有識者や市民団体からは「憲法で保障された集会の自由が制限されたり、活動の萎縮につながりかねない」との批判が出ている。
公共施設の運営を民間に任せる指定管理者制度は経費節減などのため、2003年の地方自治法改正で始まった。今回の条例改正は、「管理の基準その他の必要な事項」を定めるまでの間は指定管理者による運営はできない、との内容。
改正案を出した自民党の青羽健仁市議は「政治活動を規制する気はないが、公共施設を優先的に利用する場合は一定の公平性があるべきだ」と主張。一方、反対した民主系会派の土井裕之市議は「市が基準を作っていくつかの団体に施設を利用させない意図があるのではないか。憲法21条などで保障された自由な活動の制限につながりかねない」と話した。
センターは公益目的で非営利なら誰でも使えるが、利用登録した団体は、会議用の座席の事前予約などが優先利用できる。現在は約1700団体が登録しているが、青羽氏は14団体が「政治活動を行っている」と名指しした。このうち「九条の会・さいたま」の斉藤修治事務局長(78)は「市直営になれば、予約の妨害など、活動しにくくなる恐れがある。改正前にわれわれの意見も聞かず、一方的で憤りを感じる」と話した。
上脇博之(ひろし)・神戸学院大教授(憲法学)は「政治的色彩があれば施設の使用がだめだと言えば、憲法違反になる。公共施設は、よほどのことがない限り使うことは原則自由だ」と指摘している。

■埼玉新聞記事(2015年10月16日)
さいたま市民活動センターの指定管理停止…市議会で可決 団体が抗議
さいたま市議会は9月定例会最終日の16日、市民活動サポートセンター(同市浦和区)について、指定管理者のNPO法人による運営を当面停止し、市の直営とする条例改正案(議員提案)を自民、公明と無所属の吉田一郎議員(北区)の賛成多数で可決した。民主改革と共産、無所属の川村準議員(南区)は反対。センターは条例施行の来年4月1日から市直営となる。
議案はセンターを優先利用できる登録団体の一部が、施設を政治活動に使っているとして、自民の青羽健仁議員(浦和区)と江原大輔議員(岩槻区)が提出者となって提案。登録団体が特定非営利活動促進法や同市の市民活動推進条例で定めた市民活動の範囲を逸脱した政治活動で施設を使うことを防ぐ管理基準などを市が定めるまで、運営を指定管理者に委託できる条例の規定を付則で停止した。
清水勇人市長は閉会後「基準を作るのは難しいところもあるが、これから検討したい」と発言。センターの特徴ともなっていた市民と行政の協働方式が継続できなくなるが、同市長は「基本的な方向性は否定されておらず、条例の精神を踏まえてやっていく」と述べた。
センターの登録団体を含む5市民団体は同日、条例改正は憲法で保障された思想、信条の自由や表現の自由の規制につながる恐れがあるとして抗議の声明を出した。

■さいたまNPOセンターのブログから
指定管理を受けている同センターが発信する16日付けのブログに詳細な事実報告が出されています。http://saitamanpo.blog102.fc2.com/

その内容を要約してみますと、以下のとおりです。
①7月27日に第3期(平成28~32年度)の指定管理者の公募があり、共同事業体「さいたま市民活動推進機構」(さいたまNPOセンターと都市づくりNPOさいたま)が申請書を提出し、10月4日に公開プレゼンテーションを行った。
②応募団体は、他に市の外郭団体、地元企業の3団体があった。

③10月5日の市議会決算・評価特別委員会で、自民党の議員が、サポートセンターの登録団体約1700団体のうちの14団体を列挙して、「政治活動」を行っている団体と指摘した。(「『原発埼玉県民投票準備会』は埼玉県議会に請願をしたが、これは立派な政治活動だろう」「デモをやっている『9条の会・さいたま』は自公政権に対する批判をくりかえしている、これが政治活動でないのか」など。)
④公明党の賛同を得て、10月9日に「さいたま市市民活動サポートセンターの適切な管理運営の確保を求める決議」という附帯決議をつけて26年度決算報告書を多数決で承認。
⑤10月15日にさいたま市議会定例会(本会議)で、自民党から「さいたま市市民活動サポートセンター条例」の改正案が提出された。「センターの管理を指定管理者に行わせるための管理の基準その他の必要な事項を定めるまでの間、適用しない」という内容で、28年4月1日からの施行となっていて、翌16日に可決された。
⑥指摘した市議は、実態を知らない議員たちに「14の登録団体には優先権がある」かのような発言を繰り返した。しかし14団体は約1700団体と同じ利用規定で使用している。「優先団体が30ある」「署名簿でメールボックスがあふれかえり他団体が迷惑をしているなど」などの事実無根の発言を繰り返している。
⑦これまで「市民活動サポートセンター条例」に基づいて運営しており、同条例は「特定非営利活動促進法」や「さいたま市市民活動及び協働の推進条例」に基づいている。「協働の推進条例」の2条2項では、「主義」(政治によって実現しようとする基本的・恒常的・一般的原理・原則)の支持や推進は市民活動から除いているが、個別の政策や施策に対する活動は、市民活動として除いていない。つまり「安全保障に係る」賛否活動、「憲法改正に対する」賛否活動をすることを認めている。

■問題点
現時点では、なお明確なことは言えませんが、上記の記事や、ブログ報告を読む限りでは、問題を指摘した議員は、約1700団体ある登録団体の中のわずか14団体だけを取り上げて、しかも、その会館での使用内容ではなく、他での活動内容を調べ上げて、その14団体が「政治活動を行っている」として、しかもその団体を他の団体よりも優遇しているかのような間違った事実を述べて批判したようです。

しかし、「さいたま市市民活動及び協働の推進条例」(推進条例)を見ると、その第2条2項で「市民活動」の定義が定められ、第8条では、「市は、市民活動及び協働の推進を図るために次に掲げる施策を実施するものとする」としています。その一環として、この「さいたま市市民活動サポートセンター」が設置され、その推進のために民間団体への指定管理を導入し、条例の市民活動の定義にあう申請団体を「登録団体」として扱い、優先的な利用を認めていたというものです。
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第8条(定義)
市民活動 市民が地域又は社会における課題の発見及び解決のために、自発的かつ自主的に行う非営利で公益的な活動をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。
 
ア 宗教の教義を広め、儀式行事を行い、又は信者を教化育成することを目的とする活動
 
イ 政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とする活動
 
ウ 特定の公職(公職選挙法第3条に規定する公職をいう。以下同じ)の候補者(当該候補になろうとする者を含む。)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とする活動
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■さらに、さいたま市市民活動サポートセンター条例を見ると、第5条(利用資格等)では、次のように定めていて、これが今回の「登録団体」のことと思います。
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第5条 施設等のうち、多目的展示コーナー、団体ロッカー、メールボックス及び貸出機材を利用することができる者は、市民活動団体(推進条例第2条第3号に規定する市民活動団体をいう。)であって、市内で主たる活動を行うものとする。
2 貸出施設等を利用しようとする者は、あらかじめ利用の登録をしなければならない。
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■これからすると、登録を受けることができる団体は、上記の推進条例で定めた「市民活動」の定義に合致する団体ということになります。(推進条例第2条第3号に規定する市民活動団体=「市民が自由な意思に基づいて集まり、自律的に市民活動を行う団体をいう。」とされています。)

今回、問題を指摘した議員は、この点の解釈として、推進条例で「市民活動」の定義の除外例の中にある「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とする活動」をとらえて、14団体の活動がこれに抵触すると訴えたものと思われます。

とすれば、この議員は、「登録団体は政治活動をしてはならない」「政治活動団体を登録させているのは許されない」という誤った解釈の下で、一方的にことを進めたように思えます。これは明らかに、「政治上の主義」と「政治上の施策」との違いを誤解または無知からきたものと思います。

■「政治上の主義」と「政治上の施策」との違い
この概念の整理は、特定非営利活動促進法(NPO法)制定時の議論で整理が尽くされています。

つまり、NPO法人が行う目的達成のための政治上の施策についての提言や実現に向けた活動は当然のことですが、これについて、NPO法の中で、「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと」を認証要件としていることが、NPO法人の政策実現のための活動などができないというような誤解を生まないかが危惧されました。

しかしこの点は、同法制定時の国会での質疑で、ここで除外対象となる「政治上の主義」とは、政治によって実現しようとする基本的・恒常的・一般的な原理・原則をいい、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなものがこれに当たり、この政治上の主義と「政治上の施策」とは区別されることが明言され、この「政治上の施策の推進」は自由であることが確認されました。この点は、その後のNPO支援税制導入時の国会質疑でも同様に確認がされているところです。

つまりは、「政治上の主義の推進」を主たる目的にした団体だけがNPO法人として認証は受けられないというだけで、一言で言うと、自由主義、社会主義などの推進を党是にしたような政党的なものだけがだめであり、基本的には、具体的な施策の方向性や方策等について意見を表明したり活動したりすることは自由です。 

■混同された議論
今回、「政治上の主義」と「政治上の施策」とが混同して議論がされているように思えます。指摘をされた14の団体の活動内容を詳細には知りませんが、得た情報の限りでは、「政治上の主義の推進を主たる目的にしている」とは判断できず、むしろ、後者の「政治上の施策」の推進のための活動を主として行っているように思えます。そうとすれば、指摘した議員自体が、誤った主張で市議会をミスリードしたのではないでしょうか。この辺を、ごっちゃにして議論してはいけないのを、してしまっている感じを受けます。

■危惧される点
今回の問題は、NPO法人をはじめ、市民活動団体自体が政治的な活動を自ら過度に抑制したり、政治的な活動をするNPO法人に対して外部から批判をしたりすることが目立ってきていることに、さらに悪影響を与えそうで危惧されます。

さらに、今回、気になる点は多くあります。指摘した議員は「政治活動を規制する気は全くないが、登録時の規約とかけ離れた活動がないか、監視するシステムがないのは問題だ」とも言っているとのことです。監視をするという発想は危険な匂いがしてきます。自由な市民活動への圧力になりかねません。

そもそも、公共施設を、さまざまな政治的な活動をしている団体(当然に政治上の施策も含む)が、使用のための登録から排除されかねないということは、憲法で保障された思想・信条の自由や表現の自由の規制につながるもので、極めて危険な兆候だと言えます。他人に危害を加えない、迷惑をかけないというルールならば別として、活動がその議員にとって気に食わないものであったとしても、それに自由を認めることこそが、民主主義の根幹をなすことではないでしょうか。

■さいたまNPOセンターのブログで書かれた問題提起と危惧
このブログでは、以下の点の問題提起と危惧を示していますが、まさにその通りだと思います。
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管理基準の見直しは「自由な市民活動」への規制になる

「管理の基準の見直し」を決議していますが、現在、指定管理者は登録団体申請時の書類で判断しています。しかし、青羽市議が提出した資料はインターネットで調べた、団体がサポートセンター以外の場所で行った活動を記したものです。新たな管理基準は「申請後のサポセン以外の行動も常時、指定管理者は監視しろ」ということでしょうか。これは、14団体の問題にとどまりません。賛成した自民党・公明党支持者の中にも市民活動をしている人はたくさんいます。そういう団体がサポートセンター以外で、選挙活動や宗教活動をしているかどうか、指定管理者がチェックしろ、ということになりかねません。
 また、「政治活動」かそうでないかは、青羽市議自身が「難しく、最終的な判断は司法にゆだねられる」と発言しています。その一方、「直営にし、市職員の『裁量権』で行え」と主張していますが、公務員の『裁量権』については厳しい判決があり、直営にしても「政治活動」のついては、指定管理者制度の下での判断条件と変わりません。

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