大阪プライム法律事務所

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日本相撲協会は「公益財団法人」になれるか?

11.12.16 | 非営利・公益

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日本相撲協会が「公益財団法人」への移行に向けて動いています。
日本相撲協会は、これまでは財団法人でしたが、公益法人改革で、平成25年11月末までに、公益財団法人か一般社団法人のいずれかに移らないと、解散という事態になってしまいます。

報道で知る限りでは、いろいろと内外に問題を抱えてはいるものの、公益財団への移行を目指して動き出したようです。ただ、一部からの反発を受けるなど、大きな課題を抱えているようです。どのような課題があるでしょうか。

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新公益法人制度
従前の財団法人・社団法人という旧の公益法人制度は、平成20年12月から施行の公益法人制度改革関連法で、新たな制度になっています。施行時点で存在していた社団法人・財団法人は、法律上は「特例民法法人」という扱い(いわば監理ポストのようなもの)になり、施行から5年以内(平成25年11月末)までに、「公益社団法人、公益財団法人」か、「一般社団法人、一般財団法人」のいずれかに移行手続をしなければなりません。移行は内閣府(一都道府県内のみで事業をする場合は当該都道府県)に申請し、そこに設置された「公益認定等委員会」に諮問された後に、認定・認可決定がなされます。
もしこの間に、日本相撲協会がこれらへの移行をしなかった場合は、自動的に解散となってしまいます。
その場合は、国技館や相撲博物館など財産は、国庫に入る可能性が高くなります。日本相撲協会が公益財団への移行を前提に考えるのは、当然だろうとは思います。官庁からの厳しいチェックはありますが、公益性があるものとして社会的な信用も得られるうえ、何をおいても、税制優遇等の恩恵を受けられ、寄付金も得やすいというメリットがあります。

一般財団法人へ移行した場合
公益財団法人とは違って、ある程度自由な活動が認められることがメリットと言えます。
他方、大きなデメリットがあります。収益や基金の運用利息などが一般企業とあまり変わらない課税になります。また、公益事業のための財産(公益目的財産額といいます)を、公益事業のために使い切る計画(公益目的支出計画といいます)を立てて内閣府に申請し、かつ認可されなければなりません。これは何を意味するかというと、旧公益法人時代に築いた公益事業のための財産を保有したままでは一般財団法人に移行することが認められないということです。国技館その他の資産が対象になります。
公益に移行する場合の要件と問題点
このため、公益法人に移行するのが望ましいのは言うまでもありません。
その場合、公益認定法で定められた18もの認定基準をクリアしないとなりません。
このうちで、今回の相撲協会では、以下のような基準が問題になると思います。
①公益目的事業を行うことを主たる目的としていること
②社員、評議員、理事、監事、使用人などに特別な利益を与えないこと
③特定の個人、特定の団体などに寄附や特別の利益を与えないこと
④公益目的事業の収入がその実施に要する適正な費用を超えないこと(収支相償)
⑤同一団体の理事(監事)、使用人等の合計数が理事(監事)総数の3分の1を超えないこと(理事の構成割合)

この中で、協会内部で一番もめているのが、②と③の「特別の利益を与えないこと」と、⑤「同一団体の理事(監事)、使用人等の合計数が理事(監事)総数の3分の1を超えないこと」のようです。
②③の特別利益の問題
これの最大の問題は、いわゆる「年寄名跡」(親方株)の扱いです。従来は、親方株が億単位で個人間取引がなされていました。
しかし、そういったものを許すことは、特別利益に当たることから、今後はこれを禁じて、協会の一括管理とする方向性が示されています。そのために、実質的な名跡の買い取り金にあたる「功労金」が支払われる方向のようですが、その額などについて文科省などとの調整されているようです。
これが、既得権益とも言える年寄名跡の値崩れにつながる案に多くの親方衆が反発していて、この動きを阻止するために、評議員会の開催を要請したり、一般財団移行へ賛成の決議をした一門が出てきたりしています。親方衆に、理事長ら上層部への不満がたまっているようです。

①の「公益目的事業」の問題
「公益目的事業を行うことを主たる目的としていることかどうか」に関しては、公益認定法で22項目の事業が明示されていますが、2項の「文化及び芸術の振興を目的とする事業」や、9項の「教育、スポーツ等を通じて国民の心身の健全な発達に寄与し、又は豊かな人間性を涵養することを目的とする事業」が該当するかと思います。
八百長などをする大相撲のどこが公益なんだとか、営利の興行のようなものだとか、悪口は聞こえてきますが、相撲教習所の運営や力士等の養成、力士の相撲競技の公開実施(年6回ある「場所」は、これに当たるようです)、青少年、学生に対する相撲の指導奨励などをしていることからして、コンプライアンスの徹底は必要ですが、まあ、公益性は認めてあげていいかと思います(甘いでしょうか)。

④の「収支相償」の問題
「公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正費用を超えることはないか」という項目も、やや疑義が出されています。日本相撲協会の収支を見ると、投資活動収支差額を加えた当期収支差額は3億を超えていて、繰越収支差額は35億以上になっています。正味財産に至っては4百億円以上です。公益目的事業として、儲け過ぎていると言われていますが、この点をどう改善するかは大きな課題かと思います。

⑤の「理事の構成割合」の問題
これも問題です。現在は、理事12人のうち10人を協会の親方衆が占めています。

どうなるか?
こういった課題があることから、日本相撲協会は、「ガバナンスの整備に関する独立委員会」(奥島孝康座長・元早大総長)から放駒理事長に、公益財団法人化に向けて改革すべき点をまとめた答申が出されています。
答申では、協会の制度や組織の抜本的な改革を迫っています。年寄名跡(親方株)について、答申は、これを問題視し、「親方による後継者の推薦は認めるが、金銭の授受は認められない」としました。
また、理事の構成についても、親方から5~6人、法曹関係者と学識・スポーツ経験者から各2人、協会職員1人と例示しました。また、相撲部屋を監督する理事が、監督される側の部屋を所有するのは適切ではないとして、部屋持ち親方(師匠)の理事兼務を禁じています。外部の声を入れ、近代的な組織に改革すべきという趣旨です。
これら改革案について、複数の親方は「協会の組織は独特であり、外部の人には理解できない」と抵抗の意思を示していますが、そのような調子では、公益認定は困難かと思います。どうなるでしょうか。
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