社会保険労務士法人アルコ

トヨタ自動車の人事制度から見る裁量労働制

17.08.15 | 日々頑張るスタッフブログ

8月2日付の日本経済新聞の記事でトヨタ自動車が裁量労働制の対象範囲を広げる新しい人事制度を導入する、という記事が1面で載っていました。
裁量労働制とは、あらかじめ給料に想定時間分の賃金を払うことで実働時間に関係なく一定の時間(みなし労働時間)労働したとする制度を言います。ただし算定された労働時間が法定労働時間を超える場合は36協定の締結及び届出、割増賃金の支払いが必要となります。裁量労働制は「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、トヨタ自動車の場合は前者を採用しています。ここで裁量労働制についてみてみましょう。

専門業務型裁量労働制
 専門業務型裁量労働制は主に弁護士等の士業やデザイナー等『業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるため、使用者が労働者に対し具体的な指示をすることが困難な業務』が対象となります。使用者は上記の業務に労働者を従事させる場合、1日当たりの労働時間や労働者の健康管理に対する措置等を定めた労使協定を労働基準監督署に提出する必要があります。


企画業務型裁量労働制
 企画業務型裁量労働制は事業の運営において、企画・立案・調査・分析等の『業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるため、使用者が労働者に対し具体的な指示をしないこととする業務』が対象となります。使用者はこの場合も1日当たりの労働時間や健康管理に対する措置等を定めて労働基準監督署へ届け出る必要がありますが、企画業務型裁量労働制は専門業務型に比べて対象業務が明確ではなく、適切な管理が不十分となる虞れがあるため、使用者と労働者の代表者で構成される労使委員会を設置し、委員の5分の4以上の多数による決議が必要となります。

裁量労働制の利点・問題点と現在の普及率
 裁量労働制は労働者本人に時間管理等が任されているため、効率よく働けば少ない労働時間で安定した給料が得られ無駄な残業をしないという反面、みなし時間と実労働時間に隔たりがあると本来支払われるべき残業代が支払われないという危険もあります。このため裁量労働制の導入には厳格な制約が課されており。2016年度において裁量労働制を導入している企業の割合は専門型が2.1%、企画業務型が0.9%にとどまっています。

トヨタが適用範囲を拡大する目的
脱時間給として、政府が進める、一定の高所得者年収以上の労働者を対象とする高プロ(高度プロフェッショナル制度)は、残業代を免除する制度ですが、裁量労働制もどちらかといえば、高プロ的な運用がなされているのが実情です。
なぜ、トヨタは、厳格な運用が求められている裁量労働制の対象範囲について、法定枠を超えて進めるのでしょうか。それは、働き方改革が進む中、裁量労働制や高プロの法で定められた適用範囲を超え、広く労働者に適用できる仕組みを創設することで、育児、介護、看病、闘病、自己啓発など様々なライフワークバランスに柔軟に取り組める働き方を提供し、従業員の満足と生産性の向上を図ることにあるようです。

裁量労働制は、みなし時間ゆえ、本来は協定された時間分の賃金の支払いで足りますが、トヨタの進める制度では、あらかじめ45時間分の時間外手当を支払い、実際に45時間分残業をしなくとも返還は不要、更には45時間を超過した場合は、追加支給を行う制度です。 
いわゆる固定残業制度の適正な運用方法です。 なお、この制度では、週2時間勤務すればよく、在宅勤務も可能で過重労働防止にも配慮しているとのことです。
民間大手の進める改革は、今後の法整備に大きく影響しそうですね。

相良 晋太郎

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