社会保険労務士法人アルコ

過労死と長時間労働の関係性について

17.10.18 | 事務所通信

先日10月4日、NHKは、2013年7月にうっ血性心不全により亡くなった当時31歳の女性記者について、長時間労働による過労死であったと渋谷労働基準監督署に認定されていたと発表しました。また同月6日には、新国立競技場の建設現場で働いていた男性が、自殺した問題について、労働基準監督署が長時間労働による過労自殺と認定しました。今回はこの2つのケースをもとに、長時間労働の業務上疾病の認定基準について説明します。

脳・心臓疾患の認定基準
まず、NHKの女性記者の過労死の原因となった、脳・心臓疾患について説明します。脳・心臓疾患による過労死については、「脳血管疾患及び虚血性心疾患の認定基準」が定められており、以下の条件のいずれかに該当する業務による、過重負荷をうけた結果、発症した脳・心臓疾患は業務上疾病として扱われます。
発症直前から前日までの間に、「異常な出来事」(極度の緊張、恐怖、驚がく等の精神的負荷を引き起こす突発的・予測困難な事態)に遭遇した。
発症前約一週間において、「特に過重な業務」(日常業務と比べ、特に過重な身体的・精神的負荷を生じさせたと客観的に認められた業務)に就労した。
発症前約6ヶ月間にわたって、「著しい疲労の蓄積をもたらす過重な業務」(発症前1ヶ月につき100時間超又は2~6ヶ月平均で月80時間超の法定時間外労働)に就労したこと。
今回の場合、報道によれば、女性記者は死亡直前の月時間外労働が159時間に達し、休日が2日のみだったとされ、過酷な労働条件に身を置いていたと言えます。

精神障害の認定基準
次に、国立競技場建設の業務による心理的負荷を原因とした精神障害による過労自殺について、説明します。精神障害による過労自殺については、「心理的負荷による精神障害の認定基準」が定められており、以下の条件を満たすと業務上の疾病として取り扱われます。

①一定の精神障害を発症していること
②精神障害の発症前約6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められる事。

業務による心理的負荷以外により精神障害を発症したと認められない事。
特に、②の「業務による強い心理的負荷」について、長時間労働が挙げられ、
発症直前1ヶ月に、約160時間超え(又は3週間に約129時間超え)の法定時間外労働を行った。
発症直前の連続した2ヶ月間に、1ヶ月当たり約120時間の法定時間外労働を行い、業務が通常その程度の労働時間を要する物であった。
発症直前の連続した3ヶ月間に、1ヶ月当たり約100時間の法定時間外労働を行い、業務が通常その程度の労働時間を要する物であった。

上記の条件を満たすと、業務による心理的負荷があったとみなされます。
今回の過労自殺では報道によると、男性の自殺直前1ヶ月の法定時間外労働は190時間に及んだとされ、業務による精神疾患が認定されました。
以上、2つの事件を参考に過労死、過労自殺の認定要件について説明させていただきました。近年、過労死・過労自殺の問題は社会的関心が高まり、政府も「働き方改革」と称し、過重労働撲滅対策班(かとく)の設置等、対策に乗り出しました。業務災害による死亡事故は、労基法違反による罰金刑のみならず、民事訴訟による損害賠償請求や、企業イメージの低下など、様々な弊害をもたらします。
企業にはより厳しい労働時間の管理、コンプライアンスの徹底が求められると言えるでしょう。

相良 晋太郎

 

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