社会保険労務士法人アルコ

副業・兼業容認の動きに異議あり!

17.11.15 | 事務所通信

政府が副業・兼業を容認する動きを見せています。

なぜ、これまで専属主義をとってきたにもかかわらず、反対に舵をきったのでしょうか。
その背景には、長引く少子高齢化の先には、人口減少といった問題が立ちはだかっており、将来の労働力不足が深刻化していることにあります。

企業において、副業・兼業は、そもそも、業務効率や業務の質への影響、ノウハウや情報の流失などを理由に禁止しているのが現状です。
これを容認に転じた企業は、シナジー効果や経営的センスの醸成、広い知見と視野を持たせるなどと、より優秀な人材の育成を図る一方で、働き方改革の一環として、今いる優良人材のつなぎ留めの目的もあるのではないかと思われます。
また、副業・兼業が進めば、在職者の応募が増加するため、優秀な非正規労働者の確保も併せて狙っているものと思われます。

しかしながら、単に働き方改革では終われない法的な問題があります。
そもそも週40時間で働いている従業員が、休日を利用して、土日にバイトをした場合、労働時間は確実に40時間を超えてしまいます。
労働時間は、通算されるため、週の法定労働時間が超過した事業場は、その事業場で40時間に達していなくとも割増賃金を支払う必要が生じてしまいます。

また、労働時間管理における問題としては、長時間労働の奨励となりかねないことが懸念されます。
そもそも、働き方改革は、ワークライフバランスを浸透させることが狙いであり、とりわけ東京都は宣言企業に奨励金を支給してきたところです(29年度は終了)。
この施策に対して、真逆の取り組みともなりかねない今回の副業・兼業容認は、長時間労働による過労死問題を棚上げしているかのように私には映ります。
60時間超の法定超時間外労働は、1.5倍とする規制も中小企業の猶予が撤廃までリミットを迎え、それならば費用対効果がないので、残業を控える企業が増えていくことでしょう。
そうすると、これまで支給されていた収入は労働時間の減少と引き換えに支給されなくなることから、結果的に減収となった部分は、他で稼ぐ必要が生じ、そのタイミングで副業・兼業を容認すれば、足りない分はほかでいでくれと言っているようなものです。

一つの事業場では法定労働時間を厳守していても、副業・兼業先との労働時間を通算すれば、とんでもない長さの労働時間を従事しているのであれば、何ら問題は解決されていません。

厚生労働省では、条件付きのガイドラインを打ち出し、「本業への悪影響や会社の信用・評価に支障が生じる場合は除く」などのルールを打ち出す予定です。

本来の姿としては、企業に勤めながら芸術や音楽などの創作活動をする、社会貢献事業などの団体に所属し、その活動を通じて報酬などを受け取るといったケースを認めるなどが挙げられ、これらの活動のために有給休暇の取得を容易に促すなどの取り組みは、まさに働き方改革といえるのではないかと考えます。


対応ポイントをまとめますと

①副業・兼業に対応する就業規則の規制整備をすること
②労働時間が通算されることから、フルタイム従事者の容認は結果的にできない
③有給休暇の活用による社会貢献活動などのへの参画は団体からの報酬受領を含めて容認する
④雇用保険は主たる賃金を受ける事業場において資格取得、保険料納付をすれば足りる
⑤健保・厚年は二か所勤務届により合算した報酬により、保険料を算出の上、それぞれの事業場で案分納付する。保険証はいずれか一方の保険者を選択する
⑥労災は、その事業ごとに納付する
⑦それぞれの事業場に勤怠表を共有し、労働時間の上限管理(法定労働時間並びに36協定に基づく超過時間)を行うこと
⑧クレーム、事故対応などの突発処置に関する事業所間の協定を交わしておくこと(公共交通機関の振り替え輸送に類似)

そのほかにも、まだまだ問題がありそうですね。

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