社会保険労務士法人アルコ

不動産会社の例に見る裁量労働制の適用について

18.04.06 | 事務所通信

3月5日の読売新聞の記事に、裁量労働制の不当適用による長時間労働により、不動産会社の50代の男性社員が過労自殺し労災認定されていたという記事がありました。記事によると、同社は企画業務型の裁量労働制を、本来は導入できない営業部門の社員約600人にまで適用しており、過労自殺した男性も含まれていたとのことです。この件に関しての問題点を、最近注目を浴びている裁量労働制の説明をかねて説明していきたいと思います。

1,裁量労働制についての概要
 はじめに裁量労働制について、簡単に説明させて頂きます。
裁量労働制は、業務の性質上、その業務の具体的な遂行の方法を労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者が具体的な指示をすることが困難な場合、通常の労働時間ではなく、労使間であらかじめ決められた時間働いたとみなして労働時間を算定します。
裁量労働制には、デザイナーや新聞・出版の編集、取材等、厚生労働省令で定められた業務に従事する者に適用される「専門業務型裁量労働制」と事業の運営に関して、企画・立案などに関わる者に適用される「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、1日当たりの労働時間や、裁量労働を適用する労働者の範囲等を労使協定に定め、行政官庁(所轄労働基準監督署)に届け出る必要があります。

2,本件の裁量労働制についての問題点
 今回の件に関して、不動産会社は企業の中枢部門での企画、立案に携わる社員対し企画業務型裁量労働制を導入していましたが、実際には裁量労働制の範囲外である営業部門の社員約600人にも裁量労働制を適用していたとされ、昨年12月に労働基準監督署から是正勧告・指導を受けていました。
 企画業務型裁量労働制は、行政官庁への届け出の際に、裁量労働制を適用する対象業務、対象労働者を明確にする事が定められており、対象業務に従事していない労働者への適用は無効とされています。

 また、今回長時間労働による過労自殺が労災認定された男性社員は、死亡1ヶ月前の残業時間が180時間に達していたとされています。
裁量労働制は実際の労働時間に関わらず、1日の労働時間をあらかじめ労使間で決めた時間働いたとみなすとされています。しかし、裁量労働制を採用していても、使用者には 労働者の労働時間を把握する義務があり、裁量労働制を行政官庁へ届け出る際には、労働者の健康及び福祉を確保するための措置を使用者が講ずることが定められ、使用者は届け出以後、定期的に対象労働者の労働時間の状況、労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を行政官庁に報告する義務が課せられています。

 本件に関しては裁量労働制の不当適用に加え、労働者への健康配慮義務の欠如が招いた結果と言えます。
尚、休日・深夜労働は裁量労働制の適用範囲外とされ、対象労働者を深夜労働、休日労働させた場合は、裁量労働制で定めたみなし時間に関わらず、労働時間に応じて割増賃金を支払う必要があります。
 
おわりに
 以上、実例をもとに、裁量労働制の簡単な説明と今回の件の問題点を指摘させて頂きました。
現在、働き方改革の一環として裁量労働制が注目を浴びていますが、今回の事件に関しては「裁量労働制が原因で起こった事件」と言うよりは「裁量労働制の適用が不適切であり、規定を遵守しなかった事により起こった事件」と捉えた方が適切なのでは、という印象を受けました。
裁量労働制自体は、悪い制度ではありません。裁量労働制を適用しようとする場合は、現在の職場環境や労働者の業務内容が裁量労働制の適用に則しているか冷静に判断することが重要と思われます。
 
相良 晋太郎

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